人間

殺戮を拒んだ日本兵の歌

歌集 「小さな抵抗 殺戮を拒んだ日本兵」(岩波書店)を読んだ時の深い感動を忘れない。ロシアによるウクライナ侵攻をニュースで見るにつけ、今読み返しては感動を新たにする。 かつてアジア太平洋戦争で中国に侵略した日本軍は、国際法で禁じられている捕虜…

小包の話

深沢紅子(1904年生)という画家が、「追憶の詩人たち」という随筆を1979年に出版していたが、そのなかに「一ぱいの水」というのがある。こういうあらすじだ。 昭和6年、暑い夏の真昼、武蔵野の私の家に、白い麻の服を着た人がやってきた。 「宮沢ですが、お…

おじいさんの古時計

気がついたら自動車免許の期限が先月に過ぎていた。ありゃあ、昨年九月に更新免許のための教習はすませてあったのだが、その後の手続きが頭の中から飛んでしまって、気が付いたのが昨朝。遅かりし由良の助。わが記憶は風のように頼りなくなった。遠い過去の…

ワタシタチハニンゲンダ!

映画監督であり、人権活動家でもある高君からのメールが今朝届いた。彼の中学時代(淀川中学)、ぼくは担任だった。 三年生の時、ぼくのクラスで学級弁論会を企画し、彼は学級委員長として進行を勤めた。その時のことを「夕映えのなかに」に詳しく書いたが、…

物語化する力

小川洋子が、「アンネの日記」にもとづいて「言葉はどのようにして人を救うのか」を書いている。 「時折、私はこんな想像を巡らせます。大昔、進化の過程で言葉を獲得したばかりの人間が、狩りを終えて焚火を囲んで語り合っています。 『さっき俺は死にそう…

詩の玉手箱 「カンムリツクシ鴨」

カンムリツクシ鴨 長谷川龍生 世界中を 探ってみても たった標本が三つしかない カンムリツクシ鴨を考えていた。 その珍しい自由な鳥の 二つが北朝鮮の山の林で 発見されたのを知っているか かつて徳川が壊滅する頃 江戸城の奥にあった記録絵から ずっと後系…

「戦争は女の顔をしていない」 スヴェトラーナ・アレクシェービッチ

「戦争は女の顔をしていない」(スヴェトラーナ・アレクシェービッチ)は、読む者を引き付けてやまない。 ☆ ☆ ☆ 彼らが語る時、私は耳を傾けている、彼らが沈黙している時、私は耳を傾けている。 「これは出版しちゃだめだよ。あんただけに話すのさ。 年かさ…

アレクシェービッチさんの嘆きと希望

朝日新聞の元日朝刊は、アレクシェービッチさんのインタビュー記事で始まっていた。アレクシェービッチさんは、著書「戦争は女の顔をしていない」でソ連女性500人以上から、「チェルノブイリの祈り」では、膨大な原発事故の被災者からの聞き取りを記録として…

人類の未来 その予言

香原志勢(人類学者)が、「石となった死」という書を出している。 その最後に、こんな言葉を書いた。 「第二次世界大戦後、ヤスパースは戦争責任に触れて、『現代に生きていること、そのことこそ罪悪である』と言ったという。この言葉はわたしの肺腑をえぐ…

哀悼 福井さんを偲ぶ

晩年の福井さんは、自己の人生を、「追わずとも牛は往く」と「『金要らぬ村』を出る」のニ著に表わし、出版した。この二冊には福井さんの人生をがつづられている。 生まれたのは北陸の寺、僧侶の父は「坊さんは食いはぐれがない」と言い、福井さんを跡継ぎに…

連詩の体験が教えるもの

13世紀に、マルコポーロはイタリアから中国まで旅をした。中国での滞在を含めると、なんとまあ、24年間の旅だった。自分の脚と、ラクダだけが移動手段。情報もない、知らないところ、謎の道、異なる民族、異文化、異自然の世界を経て‥‥、それは現代では考え…

人類は進化しているか

ETV特集で、「戦火の中のHAIKU」を放送していた。外国でも俳句熱があり、それがロシアやウクライナにも広がっていた。このロシアによる侵略戦争のなかでも、俳句を作っている人がいることに驚く。日本語では5・7・5音を元にする俳句、海外ではそれを自国の言…

人類への警告

朝、ふと本棚の背表紙の文字が目に入った。坂村真民著「生きてゆく力がなくなる時」、何箇所に以前のしおりの紙が入っている。 そこをまた繰ってみた。 詩を書く心 死のうと思う日はないが 生きていく力が無くなることがある そんなとき大乗寺を訪ね わたし…

「ダウン症児から学ぶこと」

2013年からK君の書き始めた手記、 「ことともに ダウン症児から学ぶこと」 そのなかの一編、2016年10月01日をここに紹介しよう。 ☆ ☆ ☆ 福人がついに、わたしのことを「パパ」と呼びました。 この日を待って、7年間。 福人が生まれてからずっと、この子は一…

アイヌ神謡集の伝えるもの

かなり以前、朝日新聞に「ニッポン人脈記」という連載があり、「ここにアイヌ」という記事があった。ぼくはそれを切り抜きして残していた。偶然その切り抜きが出てきたので、ここにあらまし記しておこう。 「悠久の時をこの国に刻み、アイヌの人々は独時の文…

荒野・地球

二十数年前、五木寛之が「大河の一滴」で、こんなことを書いていた。 ☆ ☆ ☆ これから生きていく時代は、どういう時代なんだろう。 今この社会は乾ききっていて、もうひび割れしているのではないか。ぼくらの前には、戦後のような焼け跡、闇市が広がっている…

手紙

部落解放同盟前委員長の組坂繁之さんの記事が、朝日の9月3日に大きく報道されていた。 「水平社宣言一世紀」という見出し、オピニオン記事だ。 新聞記事は紙面の限界があるから、記事内容がどうしても多くの割愛がなされて、言葉足らずになる。インタヴュー…

教え子からの手紙 4

小説「夕映えのなかに」のなかに書いた、重度の障害児ヒロシとサトシ、そのヒロシから卒業3年後にハガキが来ていた。書類を整理していて発見。 1字が2センチほどの大きさ、ぶるぶるふるえて、ゆがんだ字。左上から右下に降りて、左に曲がり、さらに字が大…

鶴見俊輔の眼

今は亡き哲学者の鶴見俊輔がかつて、雑誌「東京人」の相撲特集に、こんなことを書いていた。往年の名横綱、大鵬と柏戸についてのエピソードである。 「樺太(サハリン)出身で、父親がウクライナ人で、母親が日本人の大鵬は、苦労して横綱まで進み、好取組を…

認知症

年が年だけに、私も記憶していることがあやふやになることが多くなった。今日は何月何日? えっと何日だったけ。 彼の名前は? えっとなんだったっけ。 家内が一冊の本を生協から購入してくれた。タイトル「ボクはやっと認知症のことがわかった」、著者は長…

イワちゃ、やすらかに

この信濃では、火葬の後本葬を行う。関西では本葬があって火葬となる。 三日間にわたるイワオさんの葬儀が終わり、喪主である息子のサトルさんが花束を持って我が家に挨拶に来られた。 手渡された挨拶文を読んだ。父イワオさんへの愛情がしみじみと心にしみ…

曲がりくねった道

先日、明石に住む息子が信州にやってきて、単独行で、上高地から蝶ヶ岳に登った。稜線に出ると、猛烈な強風に襲われ、風速、25メートルだったとか、ほとんど前進かなわず、吹き飛ばされそうだった。体を丸め、地を這うように歩いた。 息子は蝶ヶ岳から常念岳…

人が転換するとき

1921年、アイルランドがイギリスから独立したとき、北アイルランドのプロテスタント系住民が、カトリック系と対立した。 1969年、両者の抗争は首都に広がり、泥沼化した。アイルランド統一を掲げる共和軍のテロが頻発、イギリスは軍を出して鎮圧に乗りだし、…

この世界、どうすればいいのだろう

「人間が、普段は法度になっている、みずからの残忍な衝動を自由に策動させ、最終的には殺人と死を奉ずるようになれば、いったいどういうことになるだろう。」 「フーコーは考える。『人はいかにしてファシストにならずにすませるか、それも自分自身を革命の…

麗しき野

ウクライナ惨状の映像に、焼け焦げた街路樹が出ていた。 毎年緑の葉を茂らせていた樹々、 戦争がなければ、侵略が無ければ、 ウクライナの野は、稔り豊かな木々や農作物でおおわれていたことだろう。 人々は野に出て、青空の下で、汗をながしていたことだろ…

世界中に故郷がある

どの民族も、どの国も、外来文化を吸収しながら独自の文化を築いてきた 。 そして今や他の国々との密接な関係を切り離して、自国を存在させることはできない。生きることはできない。 世界の中に自国があり、自国の中に世界がある。 たくさんの詩、童謡をつ…

クレムリンの宮殿のなかで

爆撃によって破壊された建物、 着の身着のまま故郷を脱出する人々。 残虐な生き物の歴史、 山ほど教訓があるのに、いまだ懲りることがない。 モスクワ・クレムリンは絶大な権力者の宮殿、二つの大聖堂と鐘楼が建ち、イワン大帝のときの2キロメートル以上の…

ゴーサイン

朝の散歩、 頭に浮かぶもの。 昨夜、ぼくらはオリンピックのカーリング女子を見ていた。 日本選手の笑顔、快活に、試合を楽しんでいる。 そして試合に勝った。 負けた相手チームの選手は、試合途中も表情は硬かった。 その前、日本選手の顔に笑顔はなかった…

夕映えのなかに

小説「夕映えのなかに」、の二回目の校正をやっている。出版社から送られてきたゲラへの、訂正、削除、追加の、赤ペンの書き込み、校正。上巻だけでも450ページ、作業は思いのほか多い。毎日毎日、読み返しては書きこむ。 タイトルを「夕映えのなかに」に変…

オリンピックの原点

テレビから、「金メダル獲得!」という、興奮した叫び声が聞こえてくる。 「オリンピックは参加することに意義がある」、というオリンピック精神は薄れてしまった。勝つこと、メダルと取ること、そればかりだ。 ぼくはオリンピックの柔道の試合を見る気がし…