2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ヘルマン・ヘッセ ――危機の詩人

ヘルマン・ヘッセの生存中、何度も会いに行き、ヘッセ研究に生涯を打ち込んだ高橋健二は、1974年、「ヘルマン・ヘッセ ――危機の詩人」を著した。 「第二次世界大戦が起こる十余年前に、『次の戦争』を準備しつつある人間の精神錯乱を見抜いて、時代の狂気と…

半藤一利最期の書「戦争というもの」

歴史探偵と呼ばれた半藤一利さん、最期の書「戦争というもの」を2021年5月に出版、そして永眠、91歳だった。 彼の最期の著作、「戦争というもの」の序文にこんな一節がある。 「いまの日本では、日本がアメリカと3年8カ月にわたる大戦争をしたことを知らない…

ヴェ―ユの戦争観

シモーヌ・ヴェ―ユというフランス人女性の思想家がいた。 ヴェ―ユの戦争観に注目し、高く評価したのは吉本隆明だった。ヴェ―ユの考えとは? 第一次世界大戦で敗れたドイツは飢餓と貧困に陥り、ドイツ労働者の運動が台頭してくる。そこへヒトラーのナチスが拡…

知られざる歴史 ――中国の大学に贈られた「岩波の書籍」

財団法人「日中技能者交流センター」(代表・槙枝元文)から、武漢大学の日本語教師として派遣されたのは2002年だった。武漢は軍国主義時代の日本軍が占領したところで、大学構内にはその時の記憶が残っていた。大学のキャンパスは実に広大で、その中にルー…

大江健三郎が言う「新しい人」

大江健三郎が「新しい人」という言葉に出会ったのは、「新約聖書」の中の、「エフェソの信徒への手紙」だったという。 キリストは、自身の肉体を十字架にかけられることによって、対立してきた二つのものを、一つの「新しい人」につくりあげ、そして敵意を滅…

国を動かすもの

「もし若者が知っていたら! もし老人が行えたら!」、大江健三郎は自らの学生時代のことを、著作「『新しい人』の方へ」で書いている。 「私が教えを受けたフランス文学者渡辺一夫は言った。日本社会は、40代から60代ぐらいの男性によって動かされている。…

大江さん、知遇の恩義に報いたい

4月10日の朝日新聞で、感動的な記事に出会い、胸が詰まった。 中国人作家の鄭義(チョン イー)さんの寄稿文で、先日亡くなられた大江健三郎を追悼する文章だった。 鄭義さんの文章は中国語で書かれた原文を日本語に翻訳されたものだろう。タイトルは「大江…

ある逃亡兵の告白

「ある逃亡兵の告白」(丹野吉一 恒友出版 1989年)は、戦時期の日本軍を脱走し、生き抜いた記録物語である。 「1941年、戦争の気配がますます高まる時期に、海軍航空隊を逃亡し、日本最後の軍法会議に付されるまで、私の逃避行は三万キロ以上にも及んだ。幾…

内田樹の「街場の戦争論」

内田樹の「街場の戦争論」(ミシマ社)が出版されたのは2014年8月。本の副題は、「日本はなぜ『戦争のできる国』になろうとしているのか」だった。 この本の前置きに、次のようなことを書いている。9年前である。 「僕たちは今、二つの戦争の間にいるように…

高賛侑君、「むのたけじ賞」受賞

高君が、受賞した。 高君の人生は、「人間とは」をひたすら追究する道だった。「民族とは」「人権とは」「生きるとは」、ゆるぎない歩みだった。 高君の淀川中学時代、ぼくは担任教員、彼は生徒、それから60余年が過ぎた。 彼は今75歳、彼の歩みは止まらな…

初ツバメ

快晴で暖かい数日前、初ツバメを見た。朝の散歩で、満開の道祖神桜を見ての帰り、ツバメは僕の横で身をひるがえした。たったの一羽、周囲を見回しても他にツバメの姿はない。よくぞここまで来たなあ、大丈夫かなあ、夜はまだ氷点に近くなるのに、餌になる虫…

伊東静雄「春浅き」

戦争遂行一色に染め上げられたアジア太平洋戦争の時代、日本の書店から書物らしい書物がほとんど姿を消していった。その時代に、伊東静雄の詩に胸うたれた詩人がいた。詩集は、わずかの部数しか刊行されていなかったために手に入れることができず、やっと手…

モーツァルト

続・大木実の詩 地元の本屋さんで、レコードとCDのバーゲンをやっていた。たくさん並べられたそれらは、定価よりはるかに安い。ベートーヴェン全交響曲、モーツァルトのピアノコンチェルト10セット、ショパンのピアノ曲、すべてのCDはドイツやスイスの名演…