詩の玉手箱 「カンムリツクシ鴨」

 

      カンムリツクシ鴨

            長谷川龍生

 

世界中を

探ってみても

たった標本が三つしかない

カンムリツクシ鴨を考えていた。

その珍しい自由な鳥の

二つが北朝鮮の山の林で

発見されたのを知っているか

かつて徳川が壊滅する頃

江戸城の奥にあった記録絵から

ずっと後系を絶っていたが

厳然とその内なる光はつたえられた。

渡り鳥の類のなかにも

亡き日から遠ざかって

すばらしい叛逆の発生を見るのだ。

日本東京の中央

宮城の林に繁殖しつづける

鴛鴦(エンオウ おしどり)という群鳥は

まったく絶滅するか。

 

        ☆      ☆      ☆

 

 ファシズム、ナチズム、軍国主義の嵐の過ぎ去ったかのように思えたのも一時のことで、第二次世界大戦期と変わらぬ侵略戦争を今も繰り広げている。いったい人間とは何ものなのか。近代文明は何を生み出してきたのか。

 大岡信は、「カンムリツクシ鴨」の詩を紹介し、鳥類、魚類、あるいは虫類の隠喩で、永続的価値への孤独な、しかし熱くたぎるような夢を詠む詩の存在を観ている。