2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

「初年兵 江木の死」

「初年兵江木の死」という短編小説を、大正9年、細田民樹が発表している。 召集を受けて軍に入った江木は、激烈非道な演習によって命を絶った。軍隊とはどんなところなのか、その一端をこの小説でうかがうことができる。軍隊とはどんな組織なのか、作者の筆…

無着成恭さんへの手紙

おっかあ ながぐつ かってけろ そういったら あんつぁんからかってもらえ といわれた それでおしまいだ 「山びこ学校」(無着成恭編)のなかの「ふぶきの中に」に収められた山元中学校の生徒の詩だ。 教員になったぼくは「山びこ学校」に感動し、大きな影響…

キジバト、その後

窓ガラスにぶつかって、跳ね跳び、死んでしまったキジバト、土に埋めてやろうと思った。だが、毎日氷点下、ハトの体は凍結している。 ひょいと思った。この雪のなか、鳥も獣も、いったい何を食べているのだろう。 近くにキツネの巣がある。キツネも食べるも…

小さな命

昼ごろから雪がチラつき出し、次第に風も出て、吹雪になってきた。 こたつに足を突っ込んで本を読んでいたら、 背後のガラス戸に、どかんと音がした。何だ? 振り向くと、キジバトがバラの木の根方に落ちている. あー、ぶつかったのか、 ハトは、吹雪をさけ…

「もっと光を」

安曇野で「三九郎」と呼ばれているトンド、地区の子どもの火祭り、正月飾りなどを燃やす。だがこの行事はコロナで今年も中止になっている。 正明君から届いた年賀状に、大きな文字がハガキ一杯に書かれていた。 「もっと光を」 ハガキの隅には、「ゲーテの最…

詩の玉手箱 「カンムリツクシ鴨」

カンムリツクシ鴨 長谷川龍生 世界中を 探ってみても たった標本が三つしかない カンムリツクシ鴨を考えていた。 その珍しい自由な鳥の 二つが北朝鮮の山の林で 発見されたのを知っているか かつて徳川が壊滅する頃 江戸城の奥にあった記録絵から ずっと後系…

詩の玉手箱「午後のレモン水」(中村千尾)

午後のレモン水 中村千尾 午後のお茶の時間が どこの家にもやってくる 歌時計のカリヨンの音と 歯にしみるほど冷たいレモン水から 私の神話が生まれてくる この時間には とつぜん全世界に平和が来る ホワイトハウスもクレムリンも 人々は安楽椅子にもたれて…

グレタさんからの返事

グレタ・トゥーンベリさんから返事が来た。 もうたくさんです! 数十年にわたり、大手石油・ガス会社のCEOらは、温暖化を招く化石燃料の危険な影響について、誤った情報を広めてきました。 結果今、私たちは多数の犠牲者を伴う洪水や干ばつ、森林火災に直面…

到来する危機

「熱帯雨林が滅びつつある。この森が滅ぶと地球上の酸素が足りなくなる」 1960年ころ、こういう警告を発したのは西丸震哉だった。西丸は農林水産省の研究室長をつとめ、パプアニューギニア、アマゾン、アラスカ、南極など世界の秘境を探検調査し、環境観察と…

「戦争は女の顔をしていない」 <3>

女性兵士の次の声もここに取り上げておきたい。。 「兵隊の一人が、銃を撃つのをいやがったんです。『できない、わたしは人を殺したくない』 彼は軍事裁判にかけられ、銃殺でした。 あたしは、自分が殺した人の顔を見なかった。今は、自分が殺そうとしていた…

「戦争は女の顔をしていない」 <2>

第二次世界大戦でのソ連軍には、多くの女性が軍に入っていた。伍長で衛生指導員の肩書を持つ女性タマーラへの聞き書きは長い。その長い語りでスヴェトラーナ・アレクシェービッチの「戦争は女の顔をしていない」は締めくくられている。 タマーラは、アレクシ…

「戦争は女の顔をしていない」 スヴェトラーナ・アレクシェービッチ

「戦争は女の顔をしていない」(スヴェトラーナ・アレクシェービッチ)は、読む者を引き付けてやまない。 ☆ ☆ ☆ 彼らが語る時、私は耳を傾けている、彼らが沈黙している時、私は耳を傾けている。 「これは出版しちゃだめだよ。あんただけに話すのさ。 年かさ…

民衆は必ず決起するだろう

第二次世界大戦時の米軍による大阪大空襲を、私は体験しているから、ロシアの侵略で破壊され焼かれているウクライナの街をテレビで見ると、心身に強い痛みを感じる。 戦時期を生きた人の恐怖の記憶は消えることはなく、人類学者で解剖学者でもあった香原志勢…

アレクシェービッチさんの嘆きと希望

朝日新聞の元日朝刊は、アレクシェービッチさんのインタビュー記事で始まっていた。アレクシェービッチさんは、著書「戦争は女の顔をしていない」でソ連女性500人以上から、「チェルノブイリの祈り」では、膨大な原発事故の被災者からの聞き取りを記録として…