2022-01-01から1年間の記事一覧

人類の未来 その予言

香原志勢(人類学者)が、「石となった死」という書を出している。 その最後に、こんな言葉を書いた。 「第二次世界大戦後、ヤスパースは戦争責任に触れて、『現代に生きていること、そのことこそ罪悪である』と言ったという。この言葉はわたしの肺腑をえぐ…

敗戦の焼け跡で語られた「世界国家」構想

1945年、大戦で全土が空襲で焼かれ、原爆を落とされ、無条件降伏した日本。米軍占領下、住むところなく、飢えに苦しむ日本に、いち早く戦後民主主義の構想を立ち上げていった人々がいた。 敗戦後一年余、「世界国家」という雑誌が創刊された。主幹は賀川豊彦…

哀悼 福井さんを偲ぶ

晩年の福井さんは、自己の人生を、「追わずとも牛は往く」と「『金要らぬ村』を出る」のニ著に表わし、出版した。この二冊には福井さんの人生をがつづられている。 生まれたのは北陸の寺、僧侶の父は「坊さんは食いはぐれがない」と言い、福井さんを跡継ぎに…

子どもたちの声を聴きましたか

朝日新聞「私の視点」に下記の文章を投稿した。この投書が採用されるかどうかは分からない。 長野市の公園閉鎖問題 〇子どもたちの声を聴きましたか 遊ぶ子どもの声や宅地へのボールの飛び込みなどが原因で、近隣住民から苦情が出、区長会からも廃止要望があ…

一羽のトビ

見上げると一羽のトビが円を描いて舞っている。 雲が多い。 風が冷たく、他に鳥の姿はない。 描く円弧から予想して、このトビは上昇気流に乗って、上がっていくのだと思う。 ぼくは歩くのをストップして、冷たい風に吹かれてトビを見つめていた。 予想通りト…

柳一が元気になった

昨日は風が強く、雪が舞う寒い陰惨な冬の日だった。それでも夕方、一時間ほど氷点下の中、諏訪神社を回って歩いて来た。 ところが今日は一転して風無く、ぽかぽか温かい。なんといい天気だ。北アルプスの雪嶺が西から北へ青空を背景に連なっている。 小学中…

賢治の実施した「北海道修学旅行」

宮沢賢治は、花巻農学校の教員をしていた時、北海道への9日間の修学旅行を計画し実行した。貧しい暮らしをしている花巻の生徒たちにとって、9日間の修学旅行の費用捻出も大変だった。この修学旅行には賢治の、生徒たちの、未来への夢が託されていた。 1927年…

追憶の山

以前、アキオ君のリンゴ園で 夕暮れが速い。ストックをついて、常念岳を見ながら野を歩く。諏訪神社に向かう上り坂。冬枯れの田んぼに麦が芽を出している。意識して大股で、足を伸ばし上げるように歩く。ストックを突く両腕に力が入る。この歩き方をすると、…

豆むき

体調も良くなかったし、本の出版にともなう仕事も多かったし、 あれやこれやらで 畑を放置していたから、黒豆畑は草に包まれ、 実も茎も 茶色に枯れていた。 秋の天気のいい日に、痛む足を動かしながら、 やっとこさ 鎌で黒豆のサヤを刈り取って 干しておき…

連詩の体験が教えるもの

13世紀に、マルコポーロはイタリアから中国まで旅をした。中国での滞在を含めると、なんとまあ、24年間の旅だった。自分の脚と、ラクダだけが移動手段。情報もない、知らないところ、謎の道、異なる民族、異文化、異自然の世界を経て‥‥、それは現代では考え…

大阪で進行している高校削減

インターネットに次のような呼びかけが届いた。 ☆ ☆ ☆ 大阪では「3年連続定員割れで再編整備」という府立学校条例がつくられ、17もの府立高校が廃校にされています。大阪府教育委員会は、昨年、阪南市の泉鳥取高校を含む3校の廃校を強行したのに続き、今…

天に代わりて不義を討つ

私が生まれた年に日中戦争が勃発した。ラジオは日々、戦果を放送した。幼児の私は軍歌を聴きおぼえて、よく口ずさんでいた。歌詞の意味はなんとなく分かった。 天に代わりて不義を討つ 忠勇無双の我が兵は 歓呼の声に送られて 今ぞ出で立つ父母の国 勝たずば…

冬来る

島崎藤村の「千曲川のスケッチ」から、一文。 「木枯らしが吹いてきた。十一月の中旬のことだった。ある朝、私は潮の押し寄せてくるような音に驚かされて目が覚めた。空を通る風の音だ。時々それが静まったかと思うと、急にまた吹き付ける。戸も鳴れば障子も…

車座社会は生きているか

ワールドカップ、ドイツチームとの試合中、日本の応援団の歌声が響き渡っていた。 同じユニフォームを着、同じところに陣取り、同じ歌を身振りそろえて歌い、心を通い合わせ、一体感に酔う。入魂のボールがゴールに入った途端、連帯の感情が爆発した。 この…

人類は進化しているか

ETV特集で、「戦火の中のHAIKU」を放送していた。外国でも俳句熱があり、それがロシアやウクライナにも広がっていた。このロシアによる侵略戦争のなかでも、俳句を作っている人がいることに驚く。日本語では5・7・5音を元にする俳句、海外ではそれを自国の言…

晩秋

自由律俳句「つぶやき」 今朝も 野は霧 だれもおらへん ストック突いたら 歩けますよ 久保田の村まで 種をまくの遅れました なんと日は短いね 干し柿 食べてみたら もう甘かった どんどん暗くなる 短くなる 寒くなる それにしても 賢治は早く逝ってしまった …

人類への警告

朝、ふと本棚の背表紙の文字が目に入った。坂村真民著「生きてゆく力がなくなる時」、何箇所に以前のしおりの紙が入っている。 そこをまた繰ってみた。 詩を書く心 死のうと思う日はないが 生きていく力が無くなることがある そんなとき大乗寺を訪ね わたし…

「夕映えのなかに」、読者からの問い

「夕映えのなかに」巻末の、万太郎に退職を決意させた自身の行為は、何故に生じてきたのか、それまでの万太郎の生き方とは異質ではないか。この問いは重い 自身の行為は、自身の精神の問題だった。教員の心の状態は、生徒に跳ね返る。教員は単なる「教える人…

詩の玉手箱 「米」

米が食べられない、そういう時代があった。ぼくの子ども時代、食糧難だった。高い金を出して「闇米」を買う人がいたが、多くの庶民は代用食を食べて、命をつないだ。芋、トウモロコシ粉、カボチャ‥‥。 天野忠という人が、「米」という詩を書いた。 米 この …

「夕映えのなかに」感想(3)

<前川喜平さん(元文部科学省事務次官)から いただいた感想> 戦後教育を真摯に生き、教育とは何かを問い続けた一人の教師の精神の遍歴と奮闘の軌跡を描く自伝的作品。被差別部落や在日コリアンへの差別と向き合い、抑圧的な学校のあり方に抗いつつ、常に…

海三郎君がやってきた

海三郎君が埼玉からやってきた。 彼の頭はつるつる。私の頭は疎林、まだほんの少し毛がある。 工房で話をした。今年初の薪ストーブに火を入れた。 話はあっちへ跳んだりこっちへ跳んだり、 「水岡君は本を買ってくれていますよ、奥さんが亡くなってから、元…

「夕映えのなかに」読後感想文<2>

私たち夫婦が、奈良県の御所市に住んでいた時、裏の畑で家庭菜園をつくられていた井上さんが、拙著「夕映えのなかに」の購読をたくさんの人に薦めてくださり、そして読んでくださったそれぞれの人の読後感想を集めて、プリントアウトして送ってくださった。…

「夕映えのなかに」読後感想文 <1> 

吉田氏が北アルプスの麓、安曇野市に移住され、公民館での日本語教室等のご支援をいただき、私にロマンを語られた背景が、この小説を読んで今さ らながらよくよく理解できました。ドラマチックな展開で読みやすく、立派な自分史でもあると思います。小中学校…

「土の歌」をモスクワへ

今朝テレビで、「土の歌」(大木淳夫作詞、佐藤真作曲)の混声合唱を聴いた。胸がふるえた。この曲のフィナーレ、「大地讃頌」は感動的で、地元のコーラスでも以前よく練習し、アルプス公園での数百人の大合唱にも加わって歌ったことがある。 「土の歌」を聴い…

人類は進化しているのか

今朝、ついに初霜おりる。気温二度。 一昨日は、白馬連峰が初冠雪。 昼間、庭の木漏れ日のあたるところに、赤とんぼが止まって、ひなたぼこしている。冬が近づいている。 今は亡き小田実を想う。彼はエーゲ海のサントリーニ島の沖に散骨され、海に眠る。 彼…

「ダウン症児から学ぶこと」

2013年からK君の書き始めた手記、 「ことともに ダウン症児から学ぶこと」 そのなかの一編、2016年10月01日をここに紹介しよう。 ☆ ☆ ☆ 福人がついに、わたしのことを「パパ」と呼びました。 この日を待って、7年間。 福人が生まれてからずっと、この子は一…

二人の来客

先日、三重のムラから、YさんとSさんが我が家に来られた。その一週間前、二人は、燕岳に登る予定で来たついでに寄って行かれたばかり。 その日、二人は蝶が岳に登って、帰りに我が家に来られた。 「麓の三俣から日帰りで蝶が岳に登ってきたよ。快晴のアルプ…

田中克己の詩「恥辱」

第一次世界大戦は、ドイツ、オーストリア、ハンガリー、オスマントルコなどの同盟国と、フランス、イギリス、ロシア、イタリア、日本などの連合国とが、大規模な戦争を繰り広げた。そして第二次世界大戦では、ドイツ、イタリア、日本の枢軸国と、フランス、…

アイヌ神謡集の伝えるもの

かなり以前、朝日新聞に「ニッポン人脈記」という連載があり、「ここにアイヌ」という記事があった。ぼくはそれを切り抜きして残していた。偶然その切り抜きが出てきたので、ここにあらまし記しておこう。 「悠久の時をこの国に刻み、アイヌの人々は独時の文…

ビンガの謎

岩手を含めて東北は、かつてアイヌ人の住むところだった。柳田国男は、「遠野物語」で、岩手のあちこちの土地名がアイヌ語であり、アイヌの遺跡もあることを書いている。そのことを私の自伝的小説「夕映えのなかに」(本の泉社)に書き込んだが、かつて登山…