2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

予兆

戦争が廊下の奥に立っていた 渡辺白泉 この俳句に出会ったとき、戦慄が走った。俳句はぼくの心をとらえ、ぼくの心はしんしんとあの時代の闇に沈んでいくような気がした。 中国への侵略戦争が激化し、戦火が拡大していた。 昭和14年、白泉の家の薄暗い廊下の…

生命の爆発

次の室生犀星の詩三篇、味わってみたい。 五月 悲しめるもののために みどり かがやく くるしみ 生きむとするもののために ああ みどりは輝く 苗 なたまめの苗 きうりの苗 いんげん さやまめの苗 わが友よ あの あわれ深い呼びようをして ことし また苗売り…

永井荷風「花火」

「明治44年、慶応義塾に通勤する頃、わたしはその道すがら、市ヶ谷の通りで、囚人馬車が5、6台も日比谷の裁判所の方へ走っていくのを見た。わたしはこれまで見聞した世上の事件で、この折ほど言うに言われぬ、いやな心持のしたことはなかった。わたしは文…

大逆事件を告発した詩人たち

大逆事件は、無実の罪で24名が死刑に処された明治時代の大事件。 詩人佐藤春夫は明治44年、同郷の医師が、でっち上げられた罪で処刑されたことを哀しみ、皮肉と怒りを秘めて、慟哭の詩を詠んだ。 愚者の死 1911年1月23日 大石誠之助は殺されたり げに厳粛な…

モーツァルトの音楽 2

石井誠士(哲学者)の「モーツァルト 愛と創造」から。 「モーツァルトは絶えず旅をし、世界に自分を投げ出し、異質なものとぶつかりあった。モーツァルトほど、いろんな作曲家から多くのことを学んだ人がいるだろうか。彼は学ぶことの天才であった。真に創造…

モーツァルトを聴く

この頃モーツァルトをよく聴いている。 小林秀雄の、こんな文章に出会った。 「五月の朝、ぼくは友人の家で、ひとりでレコードをかけ、モーツァルトのケッヘル593を聴いていた。夜来の豪雨は上がっていたが、空には黒い雲が走り、灰色の海は一面に三角波をつ…

日本という国

司馬遼太郎は1945年、23歳の兵士であったが、特殊潜航艇による海の特攻で命を失う寸前、敗戦になって生き伸び、作家となった。戦後41年の1986年、司馬は「この国のかたち」というエッセイを「文芸春秋」に連載開始する。 エッセイの中で、司馬は予言的なこと…

五月の歌

昨日はカッコー、今朝はヨシキリの鳴き声が野に響いていた。 今日も快晴、朝5時過ぎからウォーキングに出る。ストックをついて、ゆるやかな坂を上っていく。 柴犬のカイトを連れた望月のおばちゃんが、雪を残した常念岳を背後に道を下りてきた。 「カイトよ…

日本はどう動いているのか

高賛侑君から、東京新聞の記事のコピーが送られてきた。前川喜平さんのコラム記事だ。入管難民法改正案が連休明けにでも、国会で可決される。難民申請をしている外国人の強制送還を可能にする法案だ。日本人の人権意識の欠落を前川さんが訴えている。 高君は…

大鹿村へ、歌舞伎の郷は五月晴れ

三日、南信濃の大鹿村へ、洋子と二人、早朝5時から車を走らせて行った。国の重要無形民俗文化財、大鹿歌舞伎を観るために。 中央道を走り、松川インターで出て、南アルプスを前方に、大鹿村をめざす。快晴、新緑がむんむんと香りたち、日に輝く。道は次第に…

日本が戦争をしたことを知らない人

半藤一利さんが嘆いた、「日本が戦争をしたことを知らない人が、今の日本にはいっぱいいる」という言葉、それをどう理解したらいいか。ほんとうに知らないのだろうか。 アジア太平洋戦争の体験は今も日本人の記憶の中に残っているはず、高齢者には戦争体験者…