日本社会

なぜすぐに逃げなかったのか。

<前々日からのつづき> 日中戦争において、もっとも多くの屈強な兵士を送り出した岩手県、中でも北上山地の広大な地域の村々からは多くの兵士が戦場に出ていった。そして兵士たちの多くは戦死した。 その岩手、東北の地に「生活綴り方教育運動」が起きた。…

大川小学校の悲劇から考える

2016年10月の朝日新聞に、東日本大震災の津波で流された石巻市立大川小学校の子どもたちと教員についての記事が載っていた。これは保存しておこうと残していた記事は、大川小学校に通っていた12歳の娘を津波に流された、中学校教員、佐藤敏郎さんの想いを聞…

野坂昭如の絶筆

「火垂るの墓 」の原作者、野坂昭如は、2015年、85歳で亡くなった。「絶筆」という日記を残して。 以下、「絶筆」から。 「〇月〇日、日本はエネルギー源を持たざる国、だから世界第二の工業国たりえた。21世紀、日本とアメリカはエンジン・カントリーたりう…

日本敗戦 「昭和万葉集」8月15日

1945年8月15日 日本敗戦 今日、「終戦記念日」、正午に全国戦没者追悼式が日本武道館で行われた。 かの日、天皇の放送によって、人々は敗戦をどのように理解し、思い、感じただろうか。かつて講談社が出版した「昭和万葉集」には、その日の想いを伝える歌が…

住井すゑ「牛久沼のほとり」から  2

椎(しい)の花 散るべくなりて 降りしげく 雨といえども 牛たがやせり すゑに届いた知人からの手紙に書き添えられていた、60歳の農夫の会心の一首。 住井すゑは、この歌にはすぐれた季節感があり、時間に制約される農業のきびしさが映し出されていると思う…

滅びゆくもの

こんな文章が、林望さんの「幻の旅」という本にある。林望さんは、イギリスの旅や日本の旅を、エッセイにつづった。 ◇ ◇ ◇ ‥‥ Gさんは都立高校の国語の先生で、東京に住んでいたが、心筋梗塞で手術を受け、それ以来郷里に帰って、寺の住職になった。 レンゲ…

日本という国

司馬遼太郎は1945年、23歳の兵士であったが、特殊潜航艇による海の特攻で命を失う寸前、敗戦になって生き伸び、作家となった。戦後41年の1986年、司馬は「この国のかたち」というエッセイを「文芸春秋」に連載開始する。 エッセイの中で、司馬は予言的なこと…

日本はどう動いているのか

高賛侑君から、東京新聞の記事のコピーが送られてきた。前川喜平さんのコラム記事だ。入管難民法改正案が連休明けにでも、国会で可決される。難民申請をしている外国人の強制送還を可能にする法案だ。日本人の人権意識の欠落を前川さんが訴えている。 高君は…

車座社会は生きているか

ワールドカップ、ドイツチームとの試合中、日本の応援団の歌声が響き渡っていた。 同じユニフォームを着、同じところに陣取り、同じ歌を身振りそろえて歌い、心を通い合わせ、一体感に酔う。入魂のボールがゴールに入った途端、連帯の感情が爆発した。 この…

ビンガの謎

岩手を含めて東北は、かつてアイヌ人の住むところだった。柳田国男は、「遠野物語」で、岩手のあちこちの土地名がアイヌ語であり、アイヌの遺跡もあることを書いている。そのことを私の自伝的小説「夕映えのなかに」(本の泉社)に書き込んだが、かつて登山…

久しぶりで朝のウォーク

両ストックを突いて道に出ると、東の山から日が顔を出した。 昨日から、朝の散歩の距離を延ばしている。 稲刈りの済んだ田の中の道をゆっくり歩いていく。 今日は、快晴だ。 白鷺が田のなかに降りている。 久保田の桜の樹まで行って、そこから引き返す。 横…

返事をしない校長・学長

五月に出版した小説「夕映えのなかに」(本の泉社)を、私の出身校や勤めてきた学校に五月末に贈呈した。 「夕映えのなかに」は、その時代の学校という舞台、友だちという存在、政治や社会のありかた、歴史、そして私の人生の意味や生き方に重大な影響を及ぼ…

小説、ほぼ完成

八年前から書いてきた小説が、ほぼ完成した。タイトルは初め「魂呼ばふ山河」と名付けていたが、変更しようかと思っている。今の候補名は「夕映えのなかに」という、シューベルト作曲、カール・ラッペ作詞の歌曲の名なんだが、それは小説最後に現れるシーン…

気になる言葉

「そこにあるヤツ、いくらしますか?」 若い女性が言う。その「ヤツ」というのは店の商品の一つ。 テレビで音楽談義をしている。 「私の好きなヤツはショパンの協奏曲です。」 何? 何? ショパンの曲を「ヤツ」と呼ぶのか? この「ヤツ」表現、よく聞く。使…

流行するボカシ表現 つづき

コロナ対策右往左往。 三度目の緊急事態宣言の際の記者会見で、責任を問われた菅首相の論。 「そうした変異株への対策を行うことが大事だというふうに思っています。 ただ、その対策を講じることというのは、基本的な従来の対策を、そちらの勢いの方が強かっ…

流行する表現

安倍前首相は、「しっかりと」という言葉をよく使った。 それがはやりだした。 他の議員も、官僚も、「しっかりとやります」、国民も「しっかりやりましょう」、「しっかりやってください」。 少しも「しっかり」していないのに、「しっかり」だらけになって…

この国の虚言

政治家がウソをつく。官僚がそのウソを補完する。文書もこっそり改ざんする。 ウソに鈍感、ウソが当たり前。ウソ免疫をもつ。 権力のトップや、権力機構に生きるものは、「自分は間違っているのではないか」と自己を問い直す思考から遠ざかる。「私の言って…

日本沈没 4

「日本を救え!」の叫びは世界を駆け巡り、街頭で募金や集会が行われた。しかし自分たちの国に、大量に受け入れねばならない難民への不安や疑問が、各国の国民の中にあった。小説は、その葛藤する心理も描く。また放射能の不安についても触れていた。 「原子…

日本沈没 3

小説は叙述する。 「日本消滅の日せまる、という衝撃的なニュースが世界に流れた。 日本列島の主なる四つの島が、マントル変動によって、急速に沈み、地上の火山噴火と大地震によって壊滅的な破壊を被るだろう。‥‥国連はこの問題について緊急の安保理事会が…

日本沈没 2

田所博士が低い声で言う、 「大陸移動が始まって二億年、アルプス造山運動という地殻変動の最盛期が終わってから六千万年、地球史上、未曽有の火山活動をともなったグリーンタフ造山運動が安定を見てから二千五百万年‥‥。 われわれはふたたび新たな大地殻変…

日本沈没 1

小松左京のSF小説「日本沈没」のなかに、こんな文章がある。 地球物理学者、田所博士の弁。 「日本など、こんな国なんか、わしはどうでもいいんだ。 わしには地球がある。大洋と大気のなかから、もろもろの生物を何十億年にわたって産みだし、ついには人類…

不思議な音

朝まだ暗い。四時ごろだった。 ピッ、音が聞こえた。その音で目が覚めた。何の音だろう。 ピィ、また聞こえた。この音、どこから? 三度目、音が聞こえ、ふとんのなかで、数をかぞえた。 約一分ほどしてから、ピッ、ピィ、と来る。妻は眠っている、音に気付…

森喜朗発言の女性蔑視発言に思う

ドイツ文学者、小塩節がかつて著書「ドイツに学ぶ自立的人間」に、「女性の愛」について書いていた。その部分を要約しよう。 ☆ ☆ ☆ キリストが十字架にかけられたとき、弟子たちのうち誰が十字架のもとに付いて行ったか。ヨハネだけではないか。十字架のもと…

カナダの多文化共生の歴史

高賛侑君は、1963年、私が中学教員になって三年目の初めての卒業生だった。彼は教え子だが、今は彼から私が教えを受ける。 あの年、高君は学級委員長だった。私は、秋に学級弁論大会を実施した。コリアンの女子、ミンジャが弁士になって、教壇に立って発表し…

技能実習生の苦悩と悲哀

子豚がたくさん盗まれるという事件があり、犯人のベトナム人技能実習生が逮捕されるという事件が先ごろあった。 なぜそんなことをしたのか。彼らは、技能実習生として日本に来て働いていたが、コロナの影響で受け入れ先から解雇され、仕事がないから、行き詰…

内村鑑三「後世への最大遺物」

内村鑑三は、明治27年、日清戦争の起きた年、箱根の芦ノ湖畔で開かれた夏季学校で、「後世への最大遺物」という演説をした。その演説の中に、次のような話があった。 ☆ ☆ ☆ ‥‥イギリスに、今から200年前、やせこけて病身な一人の学者がおった。 この人…

ディン君へおみやげ

日曜日夜、公民館での日本語教室にやってくるベトナム人ディン君に、我が家で穫れた枝豆、ゴーヤ、ナツメ、トマトを持っていった。 「枝豆はゆでて、ほんの少し塩を入れて、食べるとおいいしいよ。」 そう言うと、「ゆでる」という言葉が??? この言葉、彼…

上高地小梨平キャンプ場でクマ襲撃

コロナで人が激減している。上高地の小梨平キャンプ場にテントを張って寝ていた人を、クマが襲ったというニュース報道があった。キャンパーの食料を獲ろうとしたらしい。 例年なら、人ばぞろぞろ、キャンプ場は大にぎわい、クマが出没するなんてありえない。…

安倍政権のからくり

今朝も山を見ながら、お稲荷さんの丸太に腰かけて歌ってきた。いい天気だ。田植えの済んだ田んぼがあちこちに現れた。長野の気温が異常に高くなる。とりわけ昨日は安曇野がいちばん高かった。32度。ヒメシャラも白樺も新芽をふき、ハナミズキが咲きだし、…

岩手の不屈の女性

伊藤まつをという女性の「石ころのはるかな道 みちのくに生きる」(講談社)という自伝がある。 彼女は、明治27年、岩手県南都田村で生まれ、岩手師範学校女子部で学び、卒業後小学校に赴任して教職に就いた。熱烈な恋愛をし周囲の猛烈な反対を押し切って結…