2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

殺戮を拒んだ日本兵の歌

歌集 「小さな抵抗 殺戮を拒んだ日本兵」(岩波書店)を読んだ時の深い感動を忘れない。ロシアによるウクライナ侵攻をニュースで見るにつけ、今読み返しては感動を新たにする。 かつてアジア太平洋戦争で中国に侵略した日本軍は、国際法で禁じられている捕虜…

賢治とクラシック音楽

賢治の弟、宮沢清六さんが、「兄のトランク」という著書を、1987年ちくま文庫から出している。そこに大正7年ごろ、ラッパ型の蓄音機で賢治がレコードを聴いた話が出てくる。 「私どもははじめて従兄のところで洋楽のレコードを聴いたが、兄はその時、長い間…

小包の話

深沢紅子(1904年生)という画家が、「追憶の詩人たち」という随筆を1979年に出版していたが、そのなかに「一ぱいの水」というのがある。こういうあらすじだ。 昭和6年、暑い夏の真昼、武蔵野の私の家に、白い麻の服を着た人がやってきた。 「宮沢ですが、お…

東北農民管弦楽団の記事

昨日、朝日新聞の「ひと」欄に、東北農民管弦楽団を設立した白取克之さんの記事が出ていた。 白取さんは、中学生のときに、宮沢賢治の作品『セロ弾きのゴーシュ』にあこがれてチェロを始めた。そして宮沢賢治が教え子に、百姓になれと諭したことを知る。賢治…

詩の玉手箱 「コットさんの出てくる抒情詩」

コットさんの出てくる抒情詩 金子光晴 子どもも見ている 母も見ている けさ、湖水が初めて凍った 水はもう動かない 母は 水の上をすべってみたいという 子どももまねをして ちょっとそう思ってみる だが、子どもは寒がり屋 ‥‥‥ ――戦争は慢性病です コットさ…

詩の玉手箱   滅びに至る人類か 原民喜の詩

主よ、あわれみたまえ、家なき子のクリスマスを 今 家のない子は もはや明日も家はないでしょう 今 家のある子らも 明日は家なき子になるでしょう あわれな おろかな我らは 身と自らを破滅に導き 破滅の一歩手前で立ち止まることを知りません 明日 ふたたび…

詩の玉手箱 石垣りん「弔詞」

石垣りんは、大正九年生まれ。小学生の時から詩を書いた。戦中戦後、職場の新聞や労働組合の機関紙にも詩を発表し、第一詩集は昭和34年出版された。 「弔詞」という詩がある。石垣りんは、職場新聞に掲載されていた105名の、戦争で亡くなった人の名を見て、…

おじいさんの古時計

気がついたら自動車免許の期限が先月に過ぎていた。ありゃあ、昨年九月に更新免許のための教習はすませてあったのだが、その後の手続きが頭の中から飛んでしまって、気が付いたのが昨朝。遅かりし由良の助。わが記憶は風のように頼りなくなった。遠い過去の…

詩の玉手箱  「道]

大江満雄の次の詩は、第二次世界大戦のときの日本の光景だが、今ウクライナ起きているロシアによる侵略戦争からは、第三次への危険な予感、既にその臭いがする。戦争を止めようとする動きが、まったく出てこない。 道 大江満雄 夕暮れ 戦死者を迎える人 群れ…

詩の玉手箱「浅き春に寄せて」

浅き春に寄せて 立原道造 今は 二月 たったそれだけ あたりには もう春が聞こえている だけれども たったそれだけ 昔むかしの 約束はもうのこらない 今は 二月 たった一度だけ 夢のなかに ささやいて ひとはいない だけれども たった一度だけ 今は 二月 たっ…

「星は見ている」藤野としえ

ヒロシマ原爆によって全滅した広島一中(旧制中学)は爆心地から800メートルしか離れていなかった。校舎は一瞬にして倒壊し、生徒359名と教職員12名が命を奪われた。 ひとりの生徒の母、藤野としえは、手記「星は見ている」をつづった。 原爆投下の前日、夕…

ワタシタチハニンゲンダ!

映画監督であり、人権活動家でもある高君からのメールが今朝届いた。彼の中学時代(淀川中学)、ぼくは担任だった。 三年生の時、ぼくのクラスで学級弁論会を企画し、彼は学級委員長として進行を勤めた。その時のことを「夕映えのなかに」に詳しく書いたが、…

物語化する力

小川洋子が、「アンネの日記」にもとづいて「言葉はどのようにして人を救うのか」を書いている。 「時折、私はこんな想像を巡らせます。大昔、進化の過程で言葉を獲得したばかりの人間が、狩りを終えて焚火を囲んで語り合っています。 『さっき俺は死にそう…

清沢冽の「暗黒日記」から

第二次世界大戦後おおやけにされた清沢冽の「暗黒日記」、ばれたら身に危険の及ぶ内容を清沢は率直に日記に書いていた。 昭和18年2月25日 正木という弁護士の小雑誌は驚くべき反軍的、皮肉的なものである。戦時下にこれだけのものが出せるのは驚くべし。これ…