2002年、赴任していた中国、武漢大学の図書館で、ジョン・ダワーの「敗北を抱きしめて」(岩波書店)を見つけ、毎晩宿舎で上下巻の大冊を読んだ日々を忘れない。
そして2021年「戦争と文化」上下巻に出会った。
「戦争と文化」とは何ぞ、文化は戦争を拒否するのではないか。ジョン・ダワーは日本、アメリカ、世界の戦争を見つめて、文化的、人類的偏見は、今なお世界を覆う「戦争の文化」となっているという。
「戦略的愚行」という言葉が使われた。この言葉は、もとは1941年12月7日の日本軍による真珠湾攻撃を指すものだった。アメリカは、日本軍の真珠湾攻撃を「アメリカの屈辱」ととらえた。屈辱感は怒りと憎しみ、軽蔑の感情を増大させ、ヒロシマ、ナガサキの原爆投下となっていった。
「戦略的愚行」、その後この言葉はアメリカのホワイトハウスと国防省に向けられるようになった。2001年、9・11、ニューヨーク世界貿易センターと、国防省ペンタゴンへのイスラム過激派による攻撃。そこで使われた言葉が「屈辱」だった。
シカゴのケネディ高速道路上の看板には、次のような言葉が書かれているという。
「決して忘れるな 1941年12月7日と2001年9月11日」
ニューヨーク世界貿易センターの崩壊したビルの跡地は、「グラウンドゼロ」と名付けられた。「グラウンドゼロ」は、元来、ヒロシマとナガサキの爆心地を呼んだ言葉である。
ジョン・ダワーは述べている。
「真珠湾」は、人間の心の暗愚を象徴する。日本の暗愚、そしてヒロシマとナガサキ、アメリカの暗愚だ。
日本の「聖戦」は神話である。アメリカは、世界の例外だという考えも神話である。人間の心理の欠陥を自覚せず、偏見、先入観をもっていると、相手の考え、意図や能力を見極める視線がゆがんでしまい、「想像力」も欠如する。
ヒロシマとナガサキ、ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争とつづくアメリカの軍事的愚行。戦争突入の理由付けとレトリックにおいて、よく似ていた。
戦争を人間の文化ととらえ、「戦争の文化」が常に我々に付きまとうのはなぜかという人類史的問題にとりくんだジョンダワーの大作だ。