授業

歴史認識の欠落

「日本社会の歴史」を著した網野善彦が、こんなことを書いていた。 「五世紀後半、大王に率いられた近畿の首長連合は、各地域の首長とその率いる集団との間に、なお祭祀的、呪術的な要素を残した貢(みつぎ)・贈与を媒介とするゆるやかな支配服従関係を保ち…

虫を愛するお姫様の話

シロアリの巣があった。公園掃除で。 平安時代の中期から鎌倉時代初期にかけての短編を集めた「堤中納言物語」のなかに、虫を愛するお姫様の話が出てくる。世に名高い「虫愛(め)ずる姫君」という愉快な物語である。 中村真一郎の現代語訳が楽しい。それを…

 ベトナム青年との日本語学習

今日は、ベトナム青年二人を教える。 「はい、読んでください」 「まっすぐな竹」 「まっすぐな竹。たけって何? 知っていますか」 「はい、知っています。ベトナム、竹、たくさんあります」 「竹で何をつくりますか」 「うち、つくります」 「家? 竹で家を…

 吉野せい「春」を読む <生きることってどういうことだろう>

「丘の上の村」の学園で、16、17歳の女の子たちと吉野せいの「春」を読んだかの日の記憶はもうおぼろになっている。 「春」の冒頭の一文を読む。朗読しましょう。みんなはそれぞれの思いをこめて最初の一文を朗読した。 「春ときくだけで、すぐ明るい軽…

 夜明けに咲いたカボチャの花

麦秋 上高地のウエストン祭が6月の第一日曜に行なわれたことを今年も後からニュースで知った。毎年それを聞くと、祭りに行きたかったなと思うが、その思いはすぐにあぶくのように消えて年が過ぎてゆく。 兵庫の灘中学・高校の老教師が、中勘介の「銀の匙」…

 生徒たちがつくる授業 討議のある授業 (二)

ハーバード大学のサンデル教授の「白熱教室」がおもしろく、放送があれば必ず観ている。最近は、アメリカ、中国、日本の、それぞれ10人ほどの学生を電波で結んだ同時中継で、サンデルが授業を行なう。討論の苦手な日本の学生たちも、自分の考えを臆すること…

 生徒たちがつくる授業 討議のある授業 (一)

授業とはこんなにもおもしろいものか、と思える授業はそう多くないが、そういう授業を行なうことができれば、それは生徒と教師の心に残り、その後に何らかの影響を与えることだろう。 一方的に教えまくり、生徒はしんと聞いている、それで自己満足という授業…

 道の分岐点に立って選ぶ一本の道

今日が最後の授業になるから、何かメッセージはと考えて、小澤征良のエッセイに出てくる一片の詩「行かなかった道」を生徒たちに贈ることにした。それは筑摩書房の教科書に掲載されていたものだった。 「自分の最高の字でノートに浄書しましょう。」 ぼくは…

 小説『羅生門』  飢え死にするか盗人になるか、葛藤を考える

夕暮れ、羅生門の石段に座った下人は、雨のやむのを待ちながら途方にくれて考える。主人にひまを出されて今は無職、家も金も食べるものもない。 「クビにされたんだ。」 「ホームレスですね。」 「現代のホームレスなら、食べ物は何とか得ることが出来るよ。…

 小説『羅生門』 <1> 平安時代の災害「地震、火災、暴風、飢饉」

すでにこの小説を読んでいる生徒も、マンガで読んだという生徒も何人かはいるが、読書に親しまないほとんどの生徒は『羅生門』を知らなかった。 読んだ生徒も、ストーリーは知っているが、時代や社会や人間を探索して読んではいない。 「映画の一つ一つのシ…

 新聞記事の主観と客観

]「みなさんは、新聞を読みますか。」 生徒たちに質問してみると、読まないという生徒がぱらぱらと手を挙げた。 「新聞やテレビ、インターネットのニュースで、みなさんは情報を得ていますね。そのニュースは事実を伝えているものでしょうか。昨日の新聞で検…

 自分の頭で考える

「縄」という語が中国の戦国時代の思想家・荀子の文に出てくる。 「まっすぐに伸びた木は、縄を当ててもまっすぐであるが、それをたわめて輪にするとコンパスを当ててもぴったりあうほど円くなる。 しかし乾燥すると、曲った木はふたたび元には戻らない。だ…

 「南ア・チャバララ選手  希望の一歩」

サッカーのワールドカップ南ア大会が始まり、 朝日新聞に掲載されていた記事をコピーして、生徒たちに読ませた。 新聞の切抜きや、TVのドキュメンタリーの録画など、 その折々の時代や社会を切り取って授業の中へポンと投げ込み、教材とする、 僕のよく使…