現代社会

中野孝次の思想

「理想的社会など、ついに実現しないかもしれない。科学の進歩と人智の限りない発展が信じられていた19世紀後半にエンゲルスが夢想したような楽観的未来像は、われわれはもう信じることはできない。科学がその発展の極限に、世界を20回も破滅させるに足る兵…

子どもたちの声を聴きましたか

朝日新聞「私の視点」に下記の文章を投稿した。この投書が採用されるかどうかは分からない。 長野市の公園閉鎖問題 〇子どもたちの声を聴きましたか 遊ぶ子どもの声や宅地へのボールの飛び込みなどが原因で、近隣住民から苦情が出、区長会からも廃止要望があ…

海三郎君がやってきた

海三郎君が埼玉からやってきた。 彼の頭はつるつる。私の頭は疎林、まだほんの少し毛がある。 工房で話をした。今年初の薪ストーブに火を入れた。 話はあっちへ跳んだりこっちへ跳んだり、 「水岡君は本を買ってくれていますよ、奥さんが亡くなってから、元…

「日日是好読」2

新船海三郎君は「日日是好読」(本の泉社)で、斎藤美奈子著「中古典のすすめ」を取り上げている。 「斎藤美奈子は文芸評論としてはめずらしく人気がある。本書は60年代から80年代にベストセラーになった48作を、いまも再読に耐えられるかどうかを、『名作度…

らっきょうの歌

鶴見俊輔は、戦後間もなくから、ぽつりぽつりと詩を書いていた。 「わたしの葬式で配れるように、詩集を作りたいと思っているんだ。」 詩集の題は「もうろくの春」に決めていると。 そうして、「もうろくの春」は小部数ずつ版を重ね、「鶴見俊輔全詩集」にな…

共助の村づくり

居住地区の公民館報発行五十周年で、あなたも一筆、感想などを250字ほどで書いてほしいと依頼があり、この地区に来て16年、思いを書いて出した。 「高齢者の一人暮らしが増加している。地域の子どもの、外での群れ遊びが完全に消滅した。若者、住民にも、い…

国歌

オリンピックで金メダルをとると、国歌の演奏が流れる。 だがロシアは、かの五輪で国ぐるみのドーピング問題があって、国歌の演奏はなく、オリンピックには「ROC」、ロシアオリンピック委員会として参加していることから、国歌ではなくチャイコフスキーのピ…

力なき者たちの力

政治家は大衆に向かって平然とウソをつく。ウソはウソでなく、方便だと思っている。 世界の強国、大国のつくウソは、自国を統治するとともに、他国を味方につけ他国に影響を与え、他国を支配下に置くためのウソ。 強国に武力で抑圧されてきたチェコのハヴェ…

池澤夏樹、小説「また会う日まで」

新聞の連載小説を、毎朝読んでいる。池澤夏樹の「また会う日まで」。 この小説の連載開始は、今月の八月一日だった。その日、「この小説は読まねばならない」という思いがふっと湧いた。この小説が池澤の遺書のような気がしたのだ。彼は、1945年7月7日…

「虚無」の文明

M・エンデの書いた「はてしない物語」。 架空の国ファンタージェン国の一部に、突然「虚無」が広がり始める。「幼なごころ姫」が重い病気にかかり、「虚無」はものすごい勢いで国を呑み込んでいく。ファンタージェン国は壊滅の危機に陥る。その物語を読んで…

イタリア・ボローニャ、新たな認識

今朝の朝日新聞の「多事奏論」に、論説委員の郷富佐子さんがこんなことを書いていた。 「私はイタリア北部の村にある全寮制の高校を卒業した。200人足らずの小さな学校で、生徒も教師も家族のようだった。 イタリアでは、ハグ、キス(左ほお、右ほお)があい…

百年前 スペイン風邪のもたらしたもの

へえー、そういうことがあったのか。知らなかったなあ。 今、コロナウイルスの肺炎が世界的な脅威になってきているが、過去には、世界の歴史を変えるような流行性の風邪が猛威をふるい、それが、世界大戦を引き起こす原因にも関係していたのではなかったかと…

中村哲、哀悼の歌

無言館 12日の「朝日歌壇」に、中村哲さんの死を悼むたくさんの歌が投稿され、四人の選者全員がその中から1首、あるいは2首を選んでいた。選者は一人10首を選ぶ。四人で40首。中村哲氏の追悼の歌は5首選ばれていた。 短歌は澄んだ水面(みなも)に…

「〜かな」言葉が気になる

この頃、よく耳につき、気になる言葉がある。 それを僕は、「かな言葉」と言っている。 今朝もテレビで、医師が言っていた。成人して教職についたが、ひとつのことを集中して続けることができないで、行き詰まっている人がいた。それは一種の発達障害である…

難民 1 犬飼道子

1983年、中央公論社から出版された「人間の大地」。著者は犬飼道子。 この書は今もなお、いや今だからこそいっそう、読まれるべき書だと思う。犬飼道子の世界的な視野と歴史的な考察、そして世界での活動体験にもとづく思索、深い精神は、読めば読むほど、心…

歴史と未来

未来を考える時、過去の歴史を熟考する。 鶴見俊輔はこう考えた。 1960年に日米安保反対の抵抗があった。学生、労働者、市民の大デモが国会を取り巻く。それは敗戦のときにあるべきものが、遅れて出てきたものだった。樺美智子さんは女子学生の中で先頭に立…

ジン君、元気だった

ジン君、三ヶ月ほどベトナムに帰っていて、8月末にまた実習生として同じ職場にもどってきた。 ジン君、日曜日、日本語学習にやってきた。 「ベトナム、どうだった?」 「暑かったです。」 「いやあ、日本も暑かったよー。安曇野でも37度近く行ったからなあ。…

ヘッセの手紙

ヘッセの、1933年、アルトゥール・シュトルへの手紙。 「以前はヒトラーをあざ笑っていた教養あるドイツ人も、今はヒトラーの言うことを真に受けています。‥‥ 態度を決めて、ヒトラーの反対派に公に加われと言うが、私は拒否する。私はいかなる党派にも属さ…

狭山事件の意見広告

先日朝日新聞に、一面全体の意見広告が出ていた。 「56年間、無実を訴えつづける人。石川一雄80歳。 石川さん、無実です。狭山事件の裁判のやり直しを求めます。」 石川一雄さんの写真も出ている。 あー、狭山事件の闘争はまだ続いていたのか。僕の頭に…

風潮

安倍首相「しっかりとやります。」 閣僚「しっかりとやります。」 官僚「しっかりやります。」 野党「しっかりやってください。」 市民A「しっかり、しっかり、しっかりしかないのか。」 市民B「こんなのでいいのかなあ、と思います。」 市民C「言葉が貧…

雑が生きる地方にこそ

「雑の思想」のなかで、文化人類学者の辻信一の語った次のこと、ぼくはウーンとうなった。過疎化が叫ばれ、地方の村落では消えかけているところが増えている。そこに地方消滅論が出てきた。 「地方消滅論の主張は、合理主義を徹底させて、中央の原理を地域ま…

雑の思想と民主主義

高橋源一郎と辻真一の対談「雑の思想 世界の複雑さを愛するために」(大月書店)のなかに、こんな意見が出ている。 高橋「いま、民主主義の問題がクローズアップされているけれど、民主主義とは、デモス(民衆)+クラシ―(統治)で、「民衆による統治」です…

理想を失わない

『ユートピアだより』は、ウィリアム・モリスが一八九〇年に発表したファンタジーで、ユートピアの実現は二百年後のロンドンだった。革命すでに成り、モリスが理想とする美しい野や川、安らぎの街や村、人々は嬉々として働き、芸術を楽しむ。人間疎外の文明…

小田実と玄順恵の対話

編集 小田実と玄順恵の対話 「トラブゾンの猫」の中で、夫婦の対話が出てくる。それはアテナイ人の民主主義の形についてであった。 王がいなかった古代ギリシアでは、選挙よりも公開の場で皆が自由対等にしゃべる言論の自由が何よりも優先・重視された。デモ…

  バベルの塔

12月9日の新聞に池澤夏樹がおもしろいことを書いていた。ヨーロッパ文芸フェスティバル・国際文芸フェスティバル」の閉会式がベルギー大使館で開かれ、そこに参加したときのことを書いて、こういう思いをつづっている。 「幼いころ、民族というのは天然自…

モリス、国分功一郎、山崎亮と現代の日本

ウイリアム・モリスは、「ユートピアだより」という空想小説を書いた。彼は、1834年、ロンドン郊外で生まれ、当時日本は江戸時代後期、モリスは詩人、工芸家、装飾デザイナー、民衆文化、社会主義運動家として活躍し、日本では明治後期の1896年に亡くなった…

 社会は進んでいるか、変革しているか

1982年に、ミヒャエル・エンデとエアハルト・エプラー、ハンネ・テヒルの三人は、オリーブの森で語り合った。 その記録「オリーブの森で語り合う ファンタジー・文化・政治」が当時出版され、多くの人が読んだ。 エンデはドイツの作家、エプラーはドイツの政…

 希望とは地上の道

南北首脳の板門店会談の実況放送を見ていて、ぼくは胸が熱くなった。 東西ドイツが一つになったときの、あのベルリンの壁崩壊のような道を歩んでくれ。 二人の姿は、ドイツの市民がつるはしをふるってベルリンの壁を壊している姿を思い起こさせる。 この春ま…

 映画「ヒトラーに屈しなかった国王」

家内がもらってきた映画上映のちらしを見て、観に行きたいと思ったのは一月の中ごろだった。ノルウェイ映画「ヒトラーに屈しなかった国王」、ノルウェイの原題は「国王の拒絶」。ノルウェイでは大ヒットして、七人に一人が観たという。 上映館は塩尻市にある…

 国分功一郎の警鐘:平和主義も個人主義も理解されない「言葉の失墜」と呼ぶべき事態

国分功一郎の寄稿を今朝読んだ。(朝日) 彼は哲学者である。こんな論だった。(要旨) <戦後日本の憲法学を牽引してきた学者たちの言葉はどこか文学的だった。憲法学者の言葉が広く読まれてきたことは戦後日本の特徴かもしれない。どうして憲法が文学と関…