イワちゃ、やすらかに

 

 

 

 この信濃では、火葬の後本葬を行う。関西では本葬があって火葬となる。

 三日間にわたるイワオさんの葬儀が終わり、喪主である息子のサトルさんが花束を持って我が家に挨拶に来られた。

 手渡された挨拶文を読んだ。父イワオさんへの愛情がしみじみと心にしみる文章だった。型通りの挨拶文ではなく、イワオさんの生涯が、短い文章にみごとに表されていた。父と子の愛情のつながりが胸に迫り、感動した。

 

 ――「感謝しかありません 今までありがとう」

 父は、ガラスやサッシ、網戸などの修理や取り付けなどを請け負う仕事を切り盛りしながら、農業にも汗水流した働き者でした。多くの方から厚い信頼を寄せられたのは、仕事に妥協を許さず、真摯に取り組んでいたからでしょう。

 忙しい日々の中、音楽に心を傾けるひとときが楽しみで、地元のコーラスグループの皆様と歌声をひびかせたり、クラシックコンサートに足を運んだりしていたものです。

 最新家電に目が無く、早々と購入し、家族を喜ばせてくれたことや、「週刊朝日」で、役に立ちそうな記事を見つけると、私たちに話してくれたことも思い出します。

 毎年、地域でいちばん最初に田植えするのは我が家で、

 「イワちゃが田植えを始めたから、うちもやろう」

という周囲の方々の声をよく耳にしました。家族で農作業をしていると、父に大きな声で怒鳴られたものですが、ふだん温厚な父の、その声に皆さまが驚いていたことも、今となっては思い出です。

 「久保田萬寿」は、父が正月だけに祝う純米大吟醸酒。特別な酒で新年を祝う父の横顔が忘れられません。

 もう共に新たな年を迎えることはありませんが、実直なその生き方はこれからも私たちの明日を照らす道しるべです。これまで十分すぎるくらい頑張ってくれましたので、後のことは心配せずゆっくり休んでほしいと願います。

 良きご縁を結び、父の人生にいくたの彩を添えてくださった、すべての皆様に家族一同深く感謝申し上げます。――

 

この文章、ぼくのブログ「野の学舎」に残しておきたい。