2023-01-01から1年間の記事一覧

これが「万物の霊長」なのか

2023年も今日で終わる。だが、人間の闘争、殺し合いは終わらない。 ロシアによるウクライナ侵攻と戦いは激化、 そして4000年の歴史を背負い、幾多の戦争、侵略、支配と攻防を続けてきたイスラエルとパレスチナの対立、今この時も続いている戦闘。 殺せ’、破…

日本軍のシベリア出兵

福田正夫という詩人がいた。明治26(1893)年生まれ、昭和27年他界。学校教員を勤めるかたわら詩作し、民衆詩派の拠点を作った。彼の仲間に白鳥省吾がいた。 明治から昭和にかけて、幾多の戦争があった。詩「一つの列車とハンカチ」は、1918年(大正7年)の…

さだまさしの「防人の歌」

枯れ野を歩く。気温がずいぶん下がって、 雪片ちらつき、寒風が身にしむ。もう鳥類以外の生き物の姿は見ない。 一つの歌が頭に浮かんだ。 教えてください この世に生きとし生けるもの すべての命に 限りがあるのならば 海は死にますか 山は死にますか 風はど…

殺戮の殿堂

明治以後の近代日本においては、戦争は国民につきまとっていた。 伊藤新吉(詩人)が、近代における「戦争と詩人」について書いていた。 「白鳥省吾は、ふしぎな詩人である。その詩のあとをたどると、はっきりした主題の反戦詩が目に付く。その数は十数編、…

戦争の歴史を詠った詩人

「日本反戦詩集」(1972年出版 太平出版)という書がある。 明治維新から後、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦では、日本は勝利者の側に立った。そして第二次世界大戦では、激烈にして無謀な侵略戦争を行い、その結果、惨憺たる敗戦となった。この明治以…

タイガース監督の「あれ」

タイガース監督の、「あれ、あれ」は評判になった。選手には「あれ」で伝わり、ファンにもわかり 、マスコミでも話題になった。 ところで、この「あれ」は、年をとってくると、頻発する。老夫婦の会話。 「あれは、どこにあるかな」 「あれ? ああ、それね、…

「ロシア帝国」

クレムリン宮殿を、私は1965年に、外から眺めたことがある。シルクロード探検の旅に出るために、シベリアから経由地モスクワへ飛んだ時、赤の広場から眺めた。 15世紀、イワン大帝の時代にクレムリン宮殿は建てられた。 ルネッサンス様式で、絢爛豪華で、 そ…

「戦争」金子光晴

日本が国をあげて戦争に、はまりこんでいたとき、詩人の金子光晴は醒めていた。 君よ、 ここにあるのは、もはや風景ではない それは要塞 一そよぎの草も 動員されているのだ 地を這う虫にも 死と破滅が言い渡される‥‥ 旗のなびく方へ 寂しさが銃をかつがせ …

愛唱歌に込められた戦争 2

私が淀川中学校の教職に就いて二年目だったか、高知県から出てきて同じ職場に配置になった新任の美術科教員井上誉さんと親しくなった。ある日彼はクラスの子どもたちを連れて運動場の一角に輪になって座り込んだ。しばらくして職員室の私の耳に、歌声が聴こ…

愛唱歌に込められた戦争

明治時代になって西洋文明が日本を革命的に変えていったが、そのかなめになったのが教育だった。国づくりを担う人材養成だ。義務教育が制度化され、学校で教わる歌は、国民に愛唱された。自然を歌う、暮らしを歌う、愛国心を涵養する軍歌も作られ、歌われた…

『戦争』前に

新船海三郎君が、先日、彼の近著を贈ってきた。まったく彼の意欲、エネルギーに感心する。その書名は「翻弄されるいのちと文学」、副題に「震災の後、コロナの渦中、『戦争』前に」とある。 海三郎君の文章の一部をここに。 ◆ ◆ ◆ (日中戦争の時)二十歳で…

貞享義民とおしゅん、朗読劇

11月23日に、安曇野市三郷にある貞享義民記念館で、「おしゅん 加助騒動と少女」朗読劇の最終公演があり、洋子と二人で鑑賞してきた。 貞享義民記念館は、江戸時代、飢饉に苦しみ、重い年貢にあえぐ百姓たちが、支配者の松本藩に立ち向かった農民一揆の義民…

庶民の暮らし

今住んでいる安曇野の扇町地区公民館で、高齢者の集いが毎年行われる。コロナでここ数年中止になっていたが、今年は実施された。会の企画をしている高橋さんから、 「吉田さん、中国での体験を話ししてくれますか」 という要望があったので、お話させてもら…

犬養道子「人間の大地」の叫び

犬養道子の「人間の大地」(中公文庫 1992 )は、何度読んでも心が泣く。 その112ページ 「ほぼ七万人収容のカオイダン難民キャンプの病者テント内に、一人の子がいた。親は死んだか殺されたか、はぐれたか、一語も口にせず空を見つめたままの子。衰弱した体…

「イシ」の物語

1900年、カリフォルニアにやってきた人類学者のクローバーは、無数のネイティブアメリカンの先住民が殺され、部族が滅されている現実に出会った。危機を感じたクローバーは、大量殺戮が完了してしまう前に、原住民の情報を少しでも多く蒐集しなければならな…

滅ぼされた民族

世界各国で主に使われている言語を見ると、 ◆ブラジル、アフリカの旧ポルトガル領は、ポルトガル語。 ◆メキシコ、中南米(ブラジルをのぞく)は、スペイン語。 ◆オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、カナダ、インド(ヒンドゥー語に次ぐ)は、英語…

小さな命

ここ数日の霜でトマト、ナス、黒豆は、緑の色を失ってしまい、枯れ色になった。 大根、小松菜、野沢菜、ほうれんそうは平気。しゃきっとした緑色を保っている。今晩は大根料理だ。 小さな生き物は、不思議な生命力だ。一ミリほどの、メマトイのようなトビム…

五味川純平「人間の条件」

五味川純平の小説「人間の条件」は、かつて映画化され、またテレビドラマとなって放映されて、視聴者に強烈な感動をもたらした。映画では仲代達也が、テレビドラマでは加藤剛が、兵士の梶を主演した。 梶は、シベリアの捕虜収容所に入れられた。彼は、戦争と…

尾崎豊の歌

テレビに、尾崎の歌が流れた。尾崎が亡くなって時を経ても、曲が流れると胸に熱いものが湧く。30数年も前、加美中学校の男子生徒が、「セン、これ聴いてみ」と言って、ボロの「大阪で生まれた女」と、尾崎豊のCDを貸してくれた。その日、家で聴いた歌は、悲…

声「教師をやめたいと思うあなたへ」

今朝の朝日新聞、声の欄に、「教師をやめたいと思うあなたへ」という見出しの投書が載っていた。元中学校教員の65歳の男性の意見だ。正直な、謙虚な、温かい人間性を感じるその記事を、そのままここに載せる。 「駆け出しの頃、私の授業は私語だらけ。生徒と…

ブレヒトの詩「少年十字軍 1939」

<ブレヒトの詩から> 少年十字軍 1939 39年、ポーランドに 血なまぐさい戦争があった 無数の町の また村のあとに 荒涼たる廃墟が広がった 東の街で ひとは口々に語り 雪は降り積んでいる 聴いたか 一種の少年十字軍ができあがり ポーランドを進発してい…

小説「復活の日」(小松左京)

「復活の日」(小松左京)を読むと、かつて観たグレゴリーペッグ主演の映画「渚にて」を思い出す。第三次世界大戦が勃発し、核爆弾で北半球の人々の大半は死滅した。生き残ったアメリカ海軍の原子力潜水艦は、放射線が比較的軽微なオーストラリアのメルボル…

70年ほど前の「天声人語」

朝日新聞への投書 私は、1955年高校三年生の時から大学山岳部時代まで、山行を山日記に記録していた。今は古びた山日記、そこに私は朝日新聞「天声人語」の切り抜きを一片はさんでいた。それは黄色く変色し、活字は驚くほど小さい。1字が7ポイントほどだ。…

ゴッホ 星への旅

「ゴッホ 星への旅 上下巻」藤村信著(岩波新書)、<昨日の続き> ゴッホ(ヴァンサン)は、麦秋の海の中で、人知れず死を全うしたかった。夕べに麦畑のなかに倒れて、だれにも見出されずに、大自然に埋もれたかった。天上の星へ行き、星になりたかった。 …

ゴッホ 兄の死

「ゴッホ 星への旅 上下巻」藤村信著(岩波新書)は、ゴッホの生涯をたどる、感動的な伝記物語である。事実の軸に、いくらかの作者の創作も加わっているだろう。 ゴッホの生まれる一年前に兄が生まれ、間もなく死んだ、この事実がゴッホや家族にどのような影…

生徒を支える仕事

高校の非常勤講師を務めていた頃、私は70代に入っていた。勤務校は南松本にあった。通信制と言いながら、実質は通学制だった。いつ登校してもいいし下校してもいい。制服はない。クラスもない。要するに高校卒の資格を取れるところとして、存在していた。数…

筋萎縮症の生徒と、「こころ」(漱石)を読む

11年前の9月26日、この「野の学舎」に書いた記事を再録する。 私は私学の高校の非常勤講師をしていた。いつ登校してもいい、マンツーマンで生徒と接し、学習を援助する。いろんな子がいた。小学校中学校とも、不登校だった子、いじめを受けてきた子、障がい…

国語教育でいちばん大切なのは

かつて私は国語教員だった。 内田樹は、2013年、国語教育について教員たちに講演をした。 「国語教育でいちばん大切なのは、『沈黙の言語』につながる回路を、子どもたちが発見することではないかと僕は思います。学校における国語教育の実際に即して言うな…

野坂昭如の遺言

芋ほり 野坂昭如は、「しぶとく生きろ」を書いた。その一部を要約。 「昭和16年春、妹の紀久子ができた。もらわれてきたのだ。ぼくも養子、それを知らなかった。 ぼくは妹をかわいがった。四六時中おんぶし、あやしていた。おむつを替え、子守唄を歌った。そ…

秋の日は釣瓶落とし

つるべ(釣瓶)という水汲み道具があった。 私が小学生の頃、母方の祖父母の家に行くと、水は井戸からつるべ(釣瓶)でくんでいた。井戸は台所の中にあり、その水で生活のすべてをまかなっていた。 つるべにはロープの一端がくくりつけられていた。水を汲む…