子どもたちへのお話

 ネコの冒険(ぼうけん)

窓からのぞいたら、田んぼ向こうの雪のあぜ道を黒い動物が歩いていました。キツネの巣のある草やぶと雑木の林が東の方にあります。そっちの方から歩いてきたようです。その黒い動物はキツネではありません。小型の犬ぐらいの大きさかな、いえいえもうちっと…

 「死」というもの

朝、道のきわに動物が横たわっていました。死んでいるようです。タヌキかな、アナグマかな。近寄ってみると、顔の真ん中が縦に白く、体全体は茶色っぽい毛です。ハクビシンという動物です。頭から尻尾の先まで80センチくらいあります。車にはねられたのだろ…

 人間の春

福島県の、阿武隈山(あぶくまさん)のふもとにある荒地を、せいさんは夫と二人で長年たがやしてきました。 長い冬が終わって、春が来ました。 せいさんは、くわをかついで、開墾地(かいこんち)に向かいます。 水はけの悪い湿地にみぞを掘り、高いところの…

 人を救った熊の話 <「北越雪譜」の話 2>

北越雪譜の中に、熊の話があります。 鈴木牧之は、熊のことを「わが国の獣(けもの)の王で、義を知っている動物である。」と書いています。 「義」というのは、「正義」「義務」の「義」です。人として行なうべき道という意味です。 牧之の説では、熊は、木…

 江戸時代の秋山郷の暮らし <「北越雪譜」の話 1 >

今から174年前というと、明治維新の30年前、江戸時代のことです。 鈴木牧之(すずきぼくし)という人が、「北越雪譜(ほくえつせっぷ)」という、雪の話を書きました。 鈴木牧之は越後の国(えちごのくに)、今の新潟県の人です。 冬に、3メートルも4…

 良い人、悪い人

芥川龍之介の児童文学『蜘蛛の糸』、大泥棒カンダタは、人を殺したり、家に火をつけたり、いろいろな悪事をはたらきました。 それがためにカンダタは、死後地獄に落ち、血の池地獄で苦しみます。 それをお釈迦様がご覧になります。 カンダタは生前一匹の蜘蛛…

 長塚節『土』と 臼井吉見『自分をつくる』

信州安曇野の堀金出身だった、作家で評論家の臼井吉見が、中学生、高校生に、『自分をつくる』という話をしています。 その話は、以前一冊の本になったのですが絶版になり、 本屋で買うことはできなくなっていました。 半年ほど前、この『自分をつくる』が、…

 皆既日食を見なかった男の話

「自分は落ちこぼれだ。もう帰るところはない。 自分のルーツを失い、家も失い、道に迷った。 なんであんな国(日本)に生まれたんだろう。何度も自分をのろった。」 そんな思いをいだく一人の日本人男性が、アメリカのカリフォルニアに来て砂漠を旅しました…

 ネズミから始まった恐ろしい出来事(2)

小説『ペスト』(カミュ) 畑でとってきたバジルをのせて焼いた手作りの四角いピザ。 この前、高校生以上の人なら理解できると思ったから、 ぜひカミュの『ペスト』を読んでみよう、と書きました。 それは、新型インフルエンザが世界中に広がって、 これは経…

 ネズミから始まった恐ろしい出来事

アルジェリアのオランの町、 194*年の四月十六日の朝、 医師ベルナール・リゥーは、診療室から出かけようとして、 階段口のまんなかで一匹の死んだネズミにつまづいた。 こんなところにどうしてネズミの死骸があるんだ、おかしなこともあるものだと思っ…

 食べたことがあるもの

フクジュソウ シカ(鹿)が増えて、森の木々をかじって枯らしてしまうのが増えているんだね。 奈良県と和歌山県にまたがって、大台ケ原山という深い山があるんだ。 日本一雨の多い山だから、木々がうっそうと生い茂り、谷は深く、 今から100年余り前、明治の…

 人間の孤独と希望

みんなでお話 「『村』というのは『群』なんだね。」「群れているところ、群がっているところだね。 群れなけりゃ、生きていけなかったんだもの、人類は。 獲物をとるにしても、脚はオオカミのように速くはないし、 ライオンや熊のように強くはないし。群れ…

 巣にアシナガバチがいない

ブルーベリーという実を知っている? 「ブルー」は「青い」だね。「ベリー」はイチゴの類、「青いイチゴ」です。 イチゴといってもブルーベリーは小さな丸い実で、実の大きさは豆つぶほどかな。 熟すと黒っぽくなる。 熟れると甘いけれど、甘すぎないからい…

 子どもたちは怪談が好き(3)

第2話 大峰山の怪 大台ケ原という山があります。 原生林におおわれた紀伊山地の山で、ドライブウェイができるまでは、秘境と呼ばれていました。 ぼくが登ったのは、ドライブウェイができる前の、11月でした。 大台ケ原までの登山道はこの世のものとは思え…

  子どもたちは怪談が好き(2)

第1話 なぞの火、不思議な光 山に入るとねえ、あんなところに人はいないし、道もないし、どうしてと思うようなところに、 火がチラチラ燃えているのが見えることがあるんだ。 昔から、狐火と呼ばれている火があって、狐が火を吐いていると言うんだね。 実際…

ツバメの巣づくり

つがい(夫婦2羽)のツバメが家の軒に巣を作っています。 人間の家の軒に巣を作るのは、人間のいるところでは、カラスやヘビが来ないことを知っているからです。 カラスやヘビが来ても、人間が追い払ってくれるでしょう。 昔、昔から、人間の家に巣を作るこ…

 「こんにちは」

「アッサラーム アレイクム」 「アッサラーム アレイクム」 アフガニスタンの「こんにちは」 「あなたのうえに、平安を」 という意味だそうな。 手と手をとりあって、 「アッサラーム アレイクム」 肩と肩とを抱き合って、 「アッサラーム アレイクム」 右頬…

 歴史を知ること

二つの詩 歴史の勉強をしましたか。 何年に何があった、 誰がなにをした、 そんなのを覚えるのが歴史の勉強? そうではありません。 人がどのように生きてきたか、探っても探っても、探りきれない、 気の遠くなるような、膨大な人間の歴史があって、 今があ…

  「銀河鉄道の夜」

さびしい君へ 宮沢賢治が「銀河鉄道の夜」という童話を書いているのを、 知っていますか。 知ってるけれど、読んでいません? そうですか。じゃあ、読んでみてください。 この童話は、何かが分かるというような童話ではなく、 何かを感じる、という童話です…

  心優しい人たち

一、北京で シャオホンの視線が、 ぼくの靴下の一点に止まったみたい。 見ると、靴下に穴があいている。 シャオホンは指さした。 老師、つづくってあげます、と、 彼女の両手の指がものを言っている。 シャオホンはクラスでいちばん勉強が遅れていた。 シャ…

 勇気ある発言

サツマイモの弁当 戦争が終わって3年目の夏のこと。 小学校5年生のぼくのクラスに、 町の学校から一人の男の子が転校してきた。 河内のガラの悪いやんちゃ坊主たちは、まだはだしで遊んでいた時代だった。 転校してきた子の名前はクワタくん。 クワタくん…

  お日さまとポンキー

お日さまとポンキー ポンキーはほんとうの日の出を見たことがありません。 夕日のしずむのも見たことがありません。 太陽はいつもビルの上から顔を出し、 いつのまにかビルの向こうにかくれていました。 太陽はせまい空をだまってよこぎっていきましたが、 …

 日本に渡来してきた人

春の野 昔、葛城族の住んでいた辺り、金剛の麓の家々に朝日が射す。 ナズナ、踊子草の咲く野道、 馬酔木、椿の花が咲いている。 沈丁花の香りもただよってくる。 杏も開きだした。 見晴るかす大和国原、畝傍山、耳成山、天の香具山。 左遠くに、春日山、若草…

 山の不思議

山の不思議(ニホンオオカミと一本タタラ) 深い森を持つ山では不思議な体験をするものです。 そこはかつてニホンオオカミの生息していたところでしたし、「一本タタラ」という妖怪の伝説ののこっているところでした。 季節は秋の終わりでした。 まだドライ…

  ぼつぼつ出かけよう

ぼつぼつ出かけよう 「では、ぼつぼつ行きましょうか」 「『ぼつぼつ』? さっきは『ぼちぼち』と言いましたよ。」 中国人の雪ちゃんに声をかけたら、そんな質問が返ってきた。 「さっきは、ぼちぼち行きましょうか、と言いましたか。『ぼつぼつ』と『ぼちぼ…

   ヒーロー

ヒーロー 1951年、戦争が終わって6年がたっていました。 中学二年生に一人の男の子が転校してきました。少し背の高い、静かな子でした。名前は千宗と言って、彼のお父さん、お母さんは、戦争中に朝鮮から日本に渡ってきたのです。 千宗君が来てから、ひ…

  モグラとミミズ

モグラとミミズ モグラを知ってる? 土の中に、トンネル掘って住んでいるの。 ネズミぐらいの大きさで、強い前足で土を掘るんだよ。 暗い土の中で暮らしているから、眼はあまり見えないみたい。 冬の間も畑の土の中にいるんだよ。 前足で土を掘って、その土…