朝日新聞の元日朝刊は、アレクシェービッチさんのインタビュー記事で始まっていた。アレクシェービッチさんは、著書「戦争は女の顔をしていない」でソ連女性500人以上から、「チェルノブイリの祈り」では、膨大な原発事故の被災者からの聞き取りを記録として残した。
アレクシェービッチさんは今、ベラルーシからドイツに亡命している。
元日の記事は、語り掛けていた。
「私の母はウクライナ人、父はベラルーシ人です。今はただ涙がこぼれます。ドストエフスキーやトルストイは、人間は何故、獣に変貌するのか、そのことを理解しようとしてきた。なぜこうも簡単に人間の文化は失われてしまうのか。
プーチンはここ数年、戦争の準備をしてきました。ロシアのメディアは、プーチンの主張に合わせ、ウクライナを敵として描き、ロシアの国民を、ウクライナを憎む獣にするために働きかけてきました。
私が今住んでいるベルリンにもたくさんのウクライナ人がいます。彼らはロシアにとてつもない憎しみを抱いています。ウクライナの若者からは、これからはロシア語を読まない、ドストエフスキーもチェーホフもチャイコフスキーも大嫌いだ、という悲しい話も聞きます。
人間から獣が這い出しているのです。
私が会うウクライナ人は皆、ウクライナが勝利すると信じています。すべてのウクライナ人が、抗い、故国を守っています。これこそが絶望に打ち勝ち、耐え抜くためのよりどころなのでしょう。
私たちの生きている時代は、孤独の時代です。私たちは孤独です。
私たちは、文化や芸術のなかに、人間性を失わないための、よりどころを探さなければなりません。‥‥‥」
新聞の二面にわたる記事だけれど、文章化できるのはわずかだ。記事を読んで何かもの足りないものを感じる。彼女の主張はもっともっとあるだろう。
世界のあっちでもこっちでも、戦争準備の兵器が動き回り、威力を誇示し、政権による反政府運動弾圧が行われている。アレクシェービッチさんは、「人間から獣が這い出しているのです」と言う。その「獣」とは「悪魔」のような意味に私は聞く。そのニュアンスなら「けだもの」か。人間には、人間ならではの、他者に対する「愛」があるはずだ。自己が生きるために他の動植物の命をもらうという生物の宿命はあるが、共存共生の道を歩もうとする「愛」が人間を人間たらしめているのではないか。
それにしても、自然破壊、地球環境破壊は恐ろしい勢いで進んでいる。そこへもって戦争は滅びを加速させている。
破壊されていく自然界の生き物の声、地球の声が聞こえるか。