2019-01-01から1年間の記事一覧

鶴見俊輔伝 <3>

鶴見は、どうせ戦争にとられるなら、海軍で働くほうがまだしもましかもしれないと、軍属のドイツ語通訳を志願した。行き先は日本軍の占領地、ジャカルタの海軍武官府。任務は、連合軍の短波放送を聞いて情報を得ること。士官用の慰安所の設営にあたったこと…

鶴見俊輔伝 <2>

1996年、鶴見俊輔はこれまで発言してこなかった戦場の慰安婦の問題について発言していた。このことについて黒川創が記している。 鶴見はこう言った。 「慰安所は、日本国家による日本を含めてアジアの女性に対する陵辱の場でした。そのことを認めて謝罪する…

鶴見俊輔伝

12月21日の夜中に、「この本が面白い、読んだかどうか」というメールが息子から来た。これは23日のぼくの誕生日へのプレゼントだとわかったから、それよりも「鶴見俊輔伝」(黒川創)を読みたいと返事した。 そうしたら23日、俊輔伝が送られてきた。550ペー…

「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」

久しぶりに古本屋に入ったら、あの本の背文字が目に飛び込んできた。 不思議なんだなあ、向こうの方から飛び込んでくる。 題名「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」(加藤陽子) この本、新聞の広告欄で見た時、読みたいと思った。が、最近はほとんど図書…

山岳雑誌「ケルン」 <2>

「ケルン」最終号の巻末に載せられた別れの言葉には、言葉にならない感情、言葉にすることへのためらいが感じられる。日本は、さらに言論統制を進め、反戦、反軍の思想も行為も、「非国民」として暴力によって弾圧されていった。昭和13年は、中国への侵略…

山岳雑誌「ケルン」

今から81年前、昭和13年(1938年)6月、月刊誌「ケルン」が60号で廃刊になった。 朋文堂から出ていた月刊の山岳雑誌だった。昭和8年から5年間、60のケルンを積みかさねてきた「ケルン」も、大陸への侵略を推し進める戦時の風雲に倒された。 ケルンという言葉…

「ひきこもりの国」  <8>

元政府高官だった男性が、ひきこもりの息子を殺害したという事件が起きている。男性は70代、息子は40代、度かさなる息子の暴力に怯え、発作的に殺害に及んだらしい。この悲劇に至る前に、どこからも救いの手がのべられなかった。息子はなぜ独立すること…

「ひきこもりの国」  <7>

「日本人が夜遅くまで働くのは、働く以外の魅力的な選択肢が不足しているからだ。週35時間労働で、年に6週間の休暇を楽しんでいるヨーロッパとは大違いだ。日本のホワイトカラーは、やるべき仕事があってもなくても、たいてい日が沈んでからもずっとデス…

「ひきこもりの国」  <6>

「日本の若者は、批判的に思考する教育を受けておらず、それを奨励もされていない。権力への反発を示すためのメカニズムも存在しない。故に社会を作り直すのに力を貸すべき20代、30代、40代の人たちがその社会から離脱しようとして、ついには「ひきこもり」…

「ひきこもりの国」  <5> 

福島原発事故の前、2003年に起きていた重大な出来事をジーレンジガーがキャッチした。 福島の原発で、保守点検を担当していたGE社の日系アメリカ人、カイ・スガオカは、GE社を解雇された。それはなぜか。 「スガオカは原子炉に亀裂が入っている様子を映した…

「ひきこもりの国」  <4> 

ジーレンジガーは言う。明治以後の日本は政府主導で国のシステムをつくってきた。その中核に学校制度と教育があり、統制と訓育によって日本国民をつくることを貫徹した。そして強大な力を持つ軍国主義を育てた。 しかし、日本という現実、世界という現実を正…

「ひきこもりの国」 <3>

1999年、引きこもりの息子を持つ60歳の男性がついにタブーを打ち破り、行動に出た。奥山雅久、全国に百万人以上居ると言われる、引きこもりに苦しむ人たちを支援するための親の会の設立だった。「全国ひきこもりKHJ親の会」。奥山が言う。 「日本のシ…

「ひきこもりの国」 <2>

ジーレンジガーは問いかける。 「陰湿ないじめや、すさまじい圧力を受け、あるいは社会への順応を厳しく求められることによって個人の自己表現が抑圧されているのはなぜか。 自前のエッフェル塔を建て、ピザの焼き方やゴルフのやり方を習得し、ヒップホップ…

「ひきこもりの国」 <1>

アメリカの研究家、マイケル・ジーレンジカーが、日本に来て調査研究した報告書「ひきこもりの国」(光文社)は2007年に出版された。その頃、すでに社会的引きこもりは100万人と推定されていた。 それ以後数字は変わらず、現在若手の引きこもりは54万、中高…

ローマ教皇の祈り

レヴィナスの「困難な自由」という書がある。この本を内田樹が必読書として推薦している。こんな一節がある。 「あなた方がもし善行を施せば、ほうびを与え、悪事を働けば罰を与える、そのような勧善懲悪のロジックで動くシンプルな神をこれまで拝んでいたの…

山の光

午前5時過ぎからランと散歩に出た。まだ暗いが、うっすら明るくなってきている。 山の方へ歩いた。常念山脈が西の空に黒く横たわっている。別荘だろうか住宅だろうか、前衛峰のかなり上の方に街灯の明かりらしき光が見える。 カラスがねぐらから出てきて、二…

あの少年

ローマ教皇が今日来日、広島、長崎を訪問され、原爆被災地で祈りを捧げられるという。長崎で撮影された、アメリカ軍のカメラマンのとらえたこの一枚を見て、ローマ教皇は戦争の本質をとらえられた。 遺体焼き場の前に立ち、死んだ弟をおんぶしている少年の眼…

ベルリンのもったいない精神

小川糸が「針と糸」というエッセイ集を出している。そのなかに、「ベルリンのもったいない精神」という短編がある。 「ベルリンでは、まだ使えるものをゴミとして処分することはありえない。自分にとっては不要になったものでも、誰か他の人にとっては使える…

子どもの危機

昨年の文科省調査では、中学生の50%が視力1.0以下。 今年の文科省調査では、公立小中学校の通常学級に、支援の必要な子が6.5%いるという。読み書き障害の多くは、聴覚に問題を持っているという。 人間が本来持っている能力が、引き出されず、鍛えられず…

野性を消滅した子どもの暮らし

今朝の新聞の声欄に、次のような投稿があった。要旨を書く。 「最近の子どもの8割が近視で、10センチ離れたものを見るのも苦労する子どもがいるという。専門家は『国家的危機』と述べている。原因は、外遊びの減少だ。子どもから外遊びの機会を奪っているの…

冬来る

今日も深い霧だ。霜も降りている。気温一度。ここ数日、朝霧がたちこめ、午前中続く。 昨日、一日かかって、剪定ばさみで黒豆の根本を切り、全株を収穫してきた。すべて手作業で一切機械を使わないから、時間もかかるし、腰も痛い。 天気のいい日に、広げて…

「〜かな」言葉が気になる

この頃、よく耳につき、気になる言葉がある。 それを僕は、「かな言葉」と言っている。 今朝もテレビで、医師が言っていた。成人して教職についたが、ひとつのことを集中して続けることができないで、行き詰まっている人がいた。それは一種の発達障害である…

難民 3 緒方貞子

緒方貞子さんが逝った。92歳。 彼女が国連難民高等弁務官として難民救済にたずさわることになったのは1991年、クルド人難民救助に現地に飛び、それから2000年まで世界の難民の救援の指揮を取った。クルド難民、その数200万人。 ポルポトの虐殺を逃れるカンボ…

難民 2 犬飼道子

「人間の大地」に書かれた次のエピソードには、僕はただ唸るばかりだった。ポルポトから逃れてタイの難民キャンプに入った子どもをめぐる話、犬飼道子が、国連の難民高等弁務官事務所に身を置いて体験したことである。 1979年12月19日、七万人収容のカオイダ…

難民 1 犬飼道子

1983年、中央公論社から出版された「人間の大地」。著者は犬飼道子。 この書は今もなお、いや今だからこそいっそう、読まれるべき書だと思う。犬飼道子の世界的な視野と歴史的な考察、そして世界での活動体験にもとづく思索、深い精神は、読めば読むほど、心…

岡本潤の詩、「山」の意味するもの

山を歌っている。けれど、それを読む僕は、あの時代の人間というものをそこに感じる。そして、今の時代の何かを感じる。 岡本潤の「山」という詩がある。読んでみよう。 山 日夜 北方の山に向ひ 山を見てくらした 幾星霜 山のうごきだす天然の奇跡をおもひ …

田舎のモーツァルト音楽祭

一昨日、穂高東中学校で開催された第21回「田舎のモーツァルト音楽祭」に行ってきた。今年の生徒たちの演奏の最後に行われる、生徒と来場者全員による合唱は「大地讃頌」だった。7年前に参加した時は、全生徒と来場者による合唱は「レクイエムから」だった…

人災

木曽川と長良川にはさまれた岐阜羽島で数年間、活動したことがある。仕事が終わるとその地域をよく散策した。歩いていると、昔からの古い家が、高く土盛りして石垣をめぐらした上に建てられていた。「輪中(わじゅう)」と言われているもので、江戸時代住民…

被災の中で

東京の、区の自主避難所にやってきた二人の人が、ホームレスは入れられないと区の職員に言われて避難所に入れなかったというニュースが新聞に出ていた。 区の職員は、「ホームレス」という言葉は使わなかったようだが、職員から、「記録簿にあなたの住所・名…

日本古代の散骨とヨーロッパの樹木葬

万葉集のなかに、散骨に関係した歌がある。 巻7、1404の歌 鏡なす我が見し君を 阿婆の野の花たちばなの 玉と拾いつ (鏡のような、私が親しくした君の骨を、阿婆の野の花たちばなの玉のように拾った。) 巻7、1405の歌 秋津野を人のかくれば 朝まきし君が…