冬来る

 

 

 

 島崎藤村の「千曲川のスケッチ」から、一文。

 

 「木枯らしが吹いてきた。十一月の中旬のことだった。ある朝、私は潮の押し寄せてくるような音に驚かされて目が覚めた。空を通る風の音だ。時々それが静まったかと思うと、急にまた吹き付ける。戸も鳴れば障子も鳴る。ことに南向きの障子には、バラバラと木の葉の当たる音がして、その間には千曲川の川音もふだんからみるとずっと近く聞こえた。

 障子を開けると、木の葉は部屋の中までも舞い込んでくる。空は晴れて白い雲の見えるような日であったが、裏の流れのところに立つ柳などは、烈風に吹かれて髪を振るうように見えた。桑畑に茶褐色に残った霜葉なぞも左右に吹きなびいていた。‥‥

 土も岩も、人の皮膚の色も、私の眼には灰色に見えた。日光そのものが黄ばんだ灰色だ。その日の木枯らしが、野山を吹きまくるさまはすさまじく、激しく、また勇ましくもあった。

 柿の実で梢に残ったのは吹き落とされた。梅、スモモ、桜、ケヤキイチョウなどの霜葉はその日ことごとく落ちた。そこここにたまった落ち葉は風に吹かれて舞い上がった。‥‥」

 

 藤村が小諸にいたころの文章だろう。

 

 今朝は午前六時に、野歩きに出た。まだ日は出てこず、雲が多いから、薄暗い。その日の天候によって、鳥たちの動きはがらりと変わる。鳥たちの多い日、まったく姿の見えない日がある。鳥たちの居ない日は、野もまた寒々として暗い。ムクドリは大きな群れをつくっている。カラスはなんとなく群れたり、自分なりに自由に動いたりしている。白鷺は孤高。群れてもニ三羽。

 大糸線の電車のレール音、踏切の鐘音が遠くから聞こえてくる。

 午前7時ごろ、日が美しが原山から顔を出す。

 白馬連峰鹿島槍ヶ岳爺が岳は雪白し。