柳一が元気になった

 

 昨日は風が強く、雪が舞う寒い陰惨な冬の日だった。それでも夕方、一時間ほど氷点下の中、諏訪神社を回って歩いて来た。

 ところが今日は一転して風無く、ぽかぽか温かい。なんといい天気だ。北アルプスの雪嶺が西から北へ青空を背景に連なっている。

小学中学時代の親友、柳一に電話をしたくなって、受話器を持った。人生のいちばん盛んな時代は、まったく疎遠になり連絡もせずにいた。晩年の今になって、声を聴きたくなった。最初に電話をしたのは今春、病のために伏せっている、直接対話はできない、奥さんの話から、彼は寝たきりになっているのだ、と想像した。

 その後、二度目の電話で、奥さんは、ぼくの本「夕映えのなかに」を購入してくれて、そこに登場する小学時代の柳一の話を読み聞かせしてくれているのを知り、うれしかった。

 それから三度目の電話、柳一の声だ。おっ、元気やないか。元気に生きとるやないか。声はしゃがれ、すっかり爺さんの声だが、なつかしい。親友は大丈夫だった。

 そして今朝、四度目の電話。柳一が出た。

    「まだ、仕事しとるよ。」

 「えー、ほんまかあ、元気やないかあ。」

 子ども時代の思い出が次々と話に出てきた。

 「滝尾の初恋の人、片倉さんにも本を買うてもろたで。」

 「そうか、彼女、オレの近くに住んでたで。旦那の乾君、どうしてるかな。吉田は今、長野に住んどるんやな。会いに行きたいな。行けるかな。」

 「自動車運転してんのか。」

 「まだしてるで。長野に行くんやったら、息子に運転してもらわなあかんな。」

 「それができたらいいなあ。」

  はたしてそれが実現できるか。ひょっとしたら、奇跡が起きるかもしれない。