もう一つの奇跡

 

 

    大川小学校の悲劇について考えていて、ではあの東日本大震災で、震災後に話題になった「津波てんでんこ」が、なぜ働かなかったのだろう。

   調べていて、次のような記事に出会った。

   「津波てんでんこ」というのは、「てんでんばらばらに急いで早く逃げよ」という、津波から逃れるための教えである。三陸地方では昔から大地震が起きたら、「津波てんでんこだ」と伝えられてきた。釜石市には、「命てんでんこ」、「命てんでん」と言う。「自分の命は自分で守る」、人のことは構わずに、てんでんばらばらに、早く逃げる。逃げる人々の姿が逃げない人々に避難を促す。

    この言葉を防災の標語として提唱したのは、山下文男という人だという。「自分の命は自分で守る」ことだけでなく、「自分たちの地域は自分たちで守る」という主張も込められており、緊急時に災害弱者(子ども・老人)を手助けする方法などは、地域であらかじめの話し合って決めておくよう提案している。

    大川小学校の悲劇とは逆に、「釜石の奇跡」があったのだ。

   「津波てんでんこ」を標語に、防災訓練を受けていた釜石市内の小中学生は、登校していた全員が助かった。地震の直後に、訓練通りにグラウンドに集合して点呼を取っていたら、1人の教師が、「なにやってんだ!早く逃げろ!」と大声で指示したのだ。子どもたちは、「津波が来るぞ、逃げるぞ!」と周囲に知らせながら、保育園児のベビーカーを押し、高齢者の手を引いて高台に向かって走り続け、全員無事に避難することができた。釜石市教育委員会は、訓練や防災教育の成果である」と説明しており、日頃の取り組みの積み重ねだったという。

 

    この二つの事例、悲劇と奇跡の違い。何故に、この違いが起きたのか。大川小学校では、「山へ逃げろ」と即刻の避難を呼びかけた教員の声はとどかず、もう一方の学校の教員の声は、全員の命を守った。

    何がそうさせたのか。