2019-01-01から1年間の記事一覧

「失われた時を求めて」

フランスの小説家プルーストの「失われた時を求めて」はまったく長大な小説で、描写は複雑、精密をきわめる。記憶と意識をたどり、プルーストの生涯と人々の生を、死の数日前まで書き続けた。 こんな文章がある。こういう文章に出会うと、ぼくはしばらく立ち…

G20サミット

G20サミットの開幕前日、毎日虫取りして育ててきたキャベツや、レタスなど、初夏の野菜を箱に入れ宅配便で息子家族に送ろうと郵便局へ持っていくと、 「明日から大阪はG20サミットで、明日中に届けることはできないかもしれません。二日ほど、遅れるこ…

アオサギ

(ストローベリー ムーンの日) 田に水が入り、田植えが終わった後しばらくは、カエルの声が盛んになる。昔は夜になるとやかましいくらいにカエルの声が夜のしじまを埋め尽くしていたが、現代農業になって、このなつかしいカエルの合唱は、田植えの後の一時…

アオバトの声

最初に播いた黒豆が芽を出した。今日も涼しいうちに新たな一畝に豆を播く。去年の秋に収穫した黒豆を種にして、今年の秋にたくさん収穫できますように、二粒か三粒ずつ、三十センチおきに播く。 黒豆は毎朝食べている。煎り豆にしてビンに入れ、黒酢をひたひ…

ヒュッテ・コロボックル 4

手塚さんは、頼まれて一人の青年を山小屋に引き受け、三か月間一緒に暮らしたことがあった。 その青年は高卒後就職したが、数か月で会社を辞め、仕事を続けることができなかった。彼は学校時代、不登校だった。 青年は、山小屋に住んでも特に何をするでもな…

ヒュッテ・コロボックル  3

手塚さんは亡くなり、今は息子さんが跡を継いでいるのだろう。息子さんの名は確か貴峰(たかね)だった。随想のなかに、一歳の貴峰ちゃんが夜中に急病になり、背中におんぶして雪の降る山道を下って病院に行った話が出ていた。あれから何年になるんだろう。…

ヒュッテ・コロボックル   2

(写真:バラクラ・イングリッシュガーデン) 山小屋コロッボクルの中はこじんまりして、ちょうどお昼時が終わってコーヒータイムになっていたから、三人のスタッフがまめまめしく立ち働いていた。コーヒーを淹れていた男性がこちらを見た。ひょっとしたら手…

ヒュッテ・コロポックル

蓼科からの帰り道は、霧ケ峰からビーナスラインを美ヶ原に向けて尾根道のドライブをし、松本に下ることにした。 霧ケ峰の車山の肩には手塚宗求さんのヒュッテ・コロポックルがある。手塚さんは健在なりや。もうかなりのお年だったから亡くなられたかもしれな…

イングリッシュガーデンへ行ってきた

梅雨の晴れ間に、蓼科へ行った。 ワイフがぜひともバラクラのイングリッシュガーデンに行きたいという。少し道を迷い、八ヶ岳連峰が前方に現れたところで、途中のゲストハウスの奥さんに道を聞いた。 目的地のガーデンに到着、標高が高いせいか、バラの開花…

ヨシキリが啼く

今朝も雨かと思っていたら、止んでいたから、朝5時からラン散歩。道はまだ濡れている。 西の山の雲が低い。ときどきポツリと頭に雨粒が落ちる。 一枚の畑が雑草におおわれ、その草が背丈ほどにもなっているところから、小鳥の大きな声が響いてきた。 ギョギ…

生きる力

今では日本の炭鉱はほとんどつぶれてしまったが、石炭がまだ盛んに採掘されていたころは、劣悪な労働現場で事故も多発した。 60年安保闘争が激烈に闘われたころの、三池炭鉱における三池闘争が戦後最大の労働争議となり、あげくが1963年、死者458人を出す…

愛車

僕の乗っている車は、三菱の軽の荷物車で、十年前に中古車で買ったものだ。印刷屋さんが十年ほど仕事で使っていたもので、結構使い込んであったからタイヤはかなり擦り減っていた。整備費やら何やら全部入れて20万円だった。運転席と助手席の後ろに、二人…

モズのヒナ、元気です

巣立ちをしたモズのヒナ、無事外敵におそわれずに生きている。 あれから何日たつだろう。十分飛ぶ力もないのに早い巣立ちをして、ヒナは冒険をしてきた。無事に生きることができているのは、親鳥が見放さなかったからだ。ヒナは二羽、それぞれ我が家の庭と周…

カッコーとホトトギス

柳田國男の「遠野物語」の序文に、 「この話はすべて遠野の人、佐々木鏡石君より聞きたり。」 と書かれている。岩手の遠野郷は花巻から北上川を渡り、東へ十三里行ったところにある。遠野の「トー」は、もとアイヌ語の「湖」、遠野郷は大昔、湖だったという…

畑の会話

今朝は5時に起きた。朝飯まで2時間はある。気温が低い。そうだ、あれをやってしまおう。ランとの散歩で、遠くまで歩くのをやめ、近くに借りている畑に行った。ランは畑の横につなぎ、ジャガイモの芽かきをやりきることにした。あれこれやることが多くて、…

強風にバラのアーチが倒れた

稲田の中の数軒家、ときどき強風が吹く。 廃材の丸太を使ってバラのアーチを作ったのは十年ほど前、朝起きるとそれが風で倒れた。これから花を咲かせようと、つぼみをつけていたのに、さっぱりワヤや。 この強風にバラのアーチが耐えられなかったのは、バラ…

ヒナを発見してまた失敗

モズのヒナは、その後姿が見えなかった。逃げ込んだ菜花の茂みを調べてみても、姿はなかった。もう生きてはいないかもしれん。餌を食べないで、どこかに潜んでいても、この異常な暑さのなかだ。 そして今朝のこと。 工房の西側に材木置き場として庇を出して…

キャベツ畑

去年の秋にたくさんできたキャベツの苗が、無事に越冬し、まだ虫がつかない春先に一本ずつ独立させて、球を結ぶように育ててきたところ、ぐんぐん大きくなった。四月にモンシロチョウが舞いだし、キャベツはチョウの大好物だから、卵を産む前に防ごうと、畝…

狭山事件の意見広告

先日朝日新聞に、一面全体の意見広告が出ていた。 「56年間、無実を訴えつづける人。石川一雄80歳。 石川さん、無実です。狭山事件の裁判のやり直しを求めます。」 石川一雄さんの写真も出ている。 あー、狭山事件の闘争はまだ続いていたのか。僕の頭に…

生命のコミュニケーション

今朝、カッコーの初鳴きを聴く。 遠くから聞えてくる、カッコー。 聞き逃すことのないたったの二音、カッコー。 ナツキタ、カッコー、ナツキタ、カッコー。 クロウタドリのように複雑なメロディを歌う鳥もいて、 簡単な声もいて、 鳥たちもその種族の歌を持…

田中正造の予言

田中正造が、こんな言葉を残していることを、赤堀芳和「欲望の世界を超えて やすらぎの国はいずこに」(講談社)で知った。田中正造(1841~1913) 「今日の日本の、日本の惨状に至りたるも、決して一朝にあらず。 正造に言論の自由なきがごとし。 故に略し…

野の記憶     <16>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <16> 1974年刊行の小説「安曇野」に臼井吉見が書いている。 吉見は陸軍の少佐として本土防衛の任に就いていて敗戦を迎えた。軍は解体され、吉見は安曇野の我が家に帰ってきた。そこで見たのは、戦時中…

野の記憶     <15>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <15> 東京小平市は、武蔵野台地の西側に位置して緑が濃かった。市内の公園にも玉川上水の遊歩道にも豊かに木々が生い茂り、都営住宅を雑木林が覆う。この緑の街に魅かれて哲学者、国分功一郎は移り住…

野の記憶     <14>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <14> 日本では歴史的に「広場」がつくられなかった。古代ギリシアの都市国家の中心街には広場がつくられ、市(いち)が立ち、市民はそこに集い、政治,哲学などを論じ合い、市民総会も開かれた。デモク…

野の記憶     <13>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <13> 安曇野のJRの各駅を出発点に、既存の道も使って各地にフットパスをつくれないものか。たとえば豊科駅から西へ、下堀や中堀の屋敷林の集落を通り、烏川渓谷まで歩く道。春の烏川渓谷にはオオル…

野の記憶    <12>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <12> 二〇一七年三月、安曇野市役所の大会議室で開かれた屋敷林フォーラムに僕も参加した。討議に入って、武蔵野市と富山県砺波市、安曇野市の代表から発表があった。 初めに武蔵野市の発表。 武蔵野…

野の記憶    <11>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <11> 全国を歩いて常民の故郷を研究した民俗学者の宮本常一は囲炉裏について書いている。 「囲炉裏が消滅して日本人の性格は変わった。囲炉裏ほどみんなの心を解きほぐし対話させる場は他にない。火を…

野の記憶   <10>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <10> 森林官の加藤博二は「深山の棲息者たち」という著作を、日中戦争が始まった年に出版している。そのなかに「安曇踊り」の話が出てくる。 「常念岳の麓に、豊科という人口五千ばかりの町があるが、こ…

野の記憶   <9>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <9> 安曇野をめぐる人々の幾人かから安曇野の地と時代を眺めてみる。 明治の時代、相馬夫妻は、小さな私塾・研成義塾を穂高に創り地域の子らを育てる井口喜源治の強力な助っ人になった。キリスト者、内…

野の記憶    <8>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <8> 年を経て、妻と二人大和から安曇野に移住した。白馬岳に連なる青春時代の懐かしい山々を見ながら毎日野を歩く。 数年前の安曇野市発行の「シティマップ」に、「わが区の紹介」という記事があった。…