2019-01-01から1年間の記事一覧

アイたちの学校

高賛侑君は、ぼくが担任するクラスの学級委員長だった。ぼくが大学を出て赴任した淀川中学校の二期生であり最初の卒業生だ。 彼は「アイたちの学校」というドキュメンタリー映画を監督して制作した。先日、彼が送ってくれた迫真のそのDVDを見たところだ。映…

歴史と未来

未来を考える時、過去の歴史を熟考する。 鶴見俊輔はこう考えた。 1960年に日米安保反対の抵抗があった。学生、労働者、市民の大デモが国会を取り巻く。それは敗戦のときにあるべきものが、遅れて出てきたものだった。樺美智子さんは女子学生の中で先頭に立…

思いがけない電話

先日、電話がかかってきて、取ると、昔懐かしい声だ。声を聞いただけでわかった。 学生時代の山岳部の一年後輩、Sだ。 25年前に、ある集会で一緒だったことがあるが、それ以後情報はなかった。 特に親しくしたこともなく、1965年のシルクロード探検では同じ…

夕立

脚立に上がって、茶色く色づいたナツメの実を採る。 去年はナツメのジャムをつくった。 今年は、そのままデザートに食べている。 少しリンゴのような味がして、おいしい。 たくさん採れれば、今年もジャムにしよう。 ポツリ、ポツリ、 雨だ。西の山が雲に隠…

丸山薫の詩、二編

丸山薫が、昭和二年に発表した詩。 汽車にのって 汽車にのってアイルランドのような田舎へ行こう 人びとが祭りの日傘をくるくる回し 日が照りながら雨の降る アイルランドのような田舎へ行こう 窓に映った自分の顔を道連れにして 湖水をわたり トンネルをく…

16歳グレタさんの胸うつ演説

村のコーラスの会、練習の合間の休憩で、国連の気候変動サミットでの16歳の女性のことが話題になった。彼女の名はグレタ・トゥンベリ。スウェーデンの環境活動家。 「あの子、すごいね。」 「すごいですねえ。」 「16歳ですよ。」 「あの子の表情と演説…

この文章は誰の文章?

次の文章は元の文体を変えてあります。いったい誰の文章だと思いますか。 「世の中のこともよく知らず、学問も芸術も未熟なまま、高い家柄の子息として、地位も思いのままになり、栄華を誇る癖が付くと、学問などで苦労するのは回りくどく思うようになり、遊…

ぼくは知らなかった

「科学する心」というタイトルの文章を池澤夏樹を書いている(集英社インターナショナル 2019)。 池澤は、ぼくが全く知らなかった、思いがけない事実を教えてくれた。 「科学する心」という言葉は、1940年、戦時中に、橋田邦彦という生理学者が提唱した言葉…

北斎の晩年

今朝の新聞、福岡伸一が「動的平衡」で、「晩年が最盛期だった北斎」について書いている。(朝日) 北斎の傑作「神奈川沖浪裏」の版画も、「富嶽三十六景」も、北斎が七十歳を過ぎてからの作だった。 「北斎は少年時代の原点を忘れなかった。研鑽を積みつつ…

ジン君、元気だった

ジン君、三ヶ月ほどベトナムに帰っていて、8月末にまた実習生として同じ職場にもどってきた。 ジン君、日曜日、日本語学習にやってきた。 「ベトナム、どうだった?」 「暑かったです。」 「いやあ、日本も暑かったよー。安曇野でも37度近く行ったからなあ。…

ヘッセの手紙

ヘッセの、1933年、アルトゥール・シュトルへの手紙。 「以前はヒトラーをあざ笑っていた教養あるドイツ人も、今はヒトラーの言うことを真に受けています。‥‥ 態度を決めて、ヒトラーの反対派に公に加われと言うが、私は拒否する。私はいかなる党派にも属さ…

ジグーリ

犀川のあたり、深く朝霧立つ。 日はまだ昇らず。 常念岳頂上にのみ日があたり、 今日は快晴になるぞ。 霧が広がってくる。 ロシア民謡「ジグーリ」が頭に浮かんだ。 山でよく歌った。山岳部仲間の北さんは、この歌が特に好きで、彼の声はよく響いた。 狭霧が…

ある小ガラスの話

ヘルマン・ヘッセに、「小ガラス」という文章がある。 ヘッセがバーデンというところへ湯治にやってきたときのこと。道で小ガラスに出会った。カラスは恐れもせず、ヘッセは半歩の距離まで近づいた。カラスはヘッセをじろじろ見た。 「私は驚いた。そのカラ…

カラス

借りている半反ほどの畑に行ったら、えらい草やあ。草の勢いはたまらん。数日畑に行かなかったら、どえらいことになっている。畑には黒豆を植えているのだが、早く種をまいたのはすでに実をつけており、その間に草がにょきにょき生えている。草刈機であぜの…

カンテキ

自家製トマトソースは実にうまい。それで毎年妻が地這いトマトを長時間煮込んで作っている。トマトは僕が作り、ソースは妻が作る。 今年もソースづくりを始めた。ところが今年、トマトの出来が悪い。成長が良くなかった上に、天候不順がたたった。収穫に行く…

歴史認識の欠落

「日本社会の歴史」を著した網野善彦が、こんなことを書いていた。 「五世紀後半、大王に率いられた近畿の首長連合は、各地域の首長とその率いる集団との間に、なお祭祀的、呪術的な要素を残した貢(みつぎ)・贈与を媒介とするゆるやかな支配服従関係を保ち…

エアコン

お盆の前、日中の気温があまりに高くて、36度を超えていたから、以前奈良に住んでいたときに少しばかり使っていたエアコン(それは外して持ってきて物置に仕舞っていた)を取り出し、これを再び使用できないかと、町の職人さんにみてもらった。 職人さんいわ…

目覚め

椅子に座って、ぼんやりと庭の草木を眺めている。こんなふうに何をするでもなく、山を眺め、雲を見て、頭に浮かぶ想念の、ゆらゆらと過ぎていくのを感じることって、これまでそんなになかったように思う。日が昇る前、散歩の途中で、村の公園の木のベンチに…

山をうたう

この詩も好きだった。 甲斐が根 三木露風 夏山のいただき 白く連なる 甲斐が根よ そよ 我が心の故郷。 天晴れて青し 澄みて高し 想ひやる 神 御座(みくら)に香をたく。 雷鳥は峡間の 雪に落ちて あけぼのの 日は 紅に染めたり。 高光る甲斐が根 君をおもふ…

山の詩

そしてまた、山に向かう夜行列車の中で、「山の詩集」を取り出し、次の詩を口ずさむのだ。 山巓(さんてん)の気 堀口大学 汚邪(おや)の地を去って 山巓の気に立たう。 われらあまりにも 巷塵の濁悪(しょくあく)に慣れた。 聴け、天の声、 若い嵐が中空…

「山」という詩

青年のころ、山へ行くとき、キスリングザックの大きなポケットに「山の詩集」を一冊入れた。 濡れないようにしてはいたものの、山行中には風雨に出会う。 新しかった詩集も雨水がしみこみ、ぼろぼろになり、 それでもそれを次の山行に持って行かないと、気が…

猛暑よ、去れ

昨日、 ランが少し食べた。動物病院が出してくれた、病気回復ケアの犬用の缶詰、獣医さんは「おいしいの」と言っていた、それを昨日大スプーンに一杯ほど、ランにやると、数粒のドッグフードは見向きもしなかったのに、やっぱりおいしいのだ、食べた。なかに…

ランがあぶない

先週の土曜日のこと。 食欲旺盛のランが何も食べない。水も飲まない。工房の床下に入って、ハーハー荒い呼吸をしながら伏せたまま動こうとしない。工房の床下は、おそらく我が家でいちばんヒンヤリするところだ。 その日、早朝五時からジャガイモ掘りをした…

予兆

周囲に広がる農地は、補助整備の終わったところだが、ところどころ何も植えていない、草ぼうぼうの畑もある。 今朝、何も植えず、水だけ張った一枚の田んぼを見た。水を張るということは草の繁茂を防ぐためでもある。草を抑えるにしても、水が浅いから、細い…

視力

朝、五時過ぎにラン散歩に出た。ぐるっと野を一回りしてきて、久保田の公園のベンチに腰を下ろした。やれやれ、よっこらしょ。 足を伸ばし、ひざをぐいぐい押して伸ばし、 次に思い切り両手で引き寄せて曲げる。 何度も繰り返す。これが痛み解消法。 正面に…

道で出会う人とのあいさつ、 「よく降りますね。」 「ほんとにもう、こまります」 「トマトも大きくならないですね。」 「ほんと、ほんと」 「キウリは小さく曲がって」 「このまま、こんなんで、秋になるんですかね。」 ムクゲが咲いている。白花も、紅花も…

草引きの草の処分

居住区のごみステーションに燃えるごみ1袋を自転車で持って行った。朝の7時前、すでにごみの入った袋が30ほど出ている。8時までに、これが100袋を超える量になる。 そのなかに、刈り取った草の詰められた袋が5袋あった。 「またかあ、この前も出て…

歌は言葉のアクセントに一致する

「夏は来ぬ」を歌ってみると、メロディが歌詞のアクセントにぴったり合っていることが分かる。日本人の作曲した歌は、歌詞が先にあってそれに曲をつけていることが多い。作曲家は、歌詞の単語のアクセントに合うように音階を頭に浮かべ曲を作る。 この場合の…

一つの記事

今朝、「特派員メモ」という一つの小さなコラムの記事が心にとまった。コラムの最後に吉岡桂子と名前が付されている。 それを一部要約して、ここに書く。 「大連市は、中国では珍しい、路面電車の街だ。日本統治時代の20世紀初めごろからゴトゴト走ってい…

失われた時を求めて  2

こんな描写もある。 「雨が降り始めた。メガネ屋の店頭にぶらさがっている湿度計人形を見て、心配していた雨だ。雨は翼をそろえて飛ぶ鳥さながら、ぎっしり並んで降ってくる。雨は離れ離れにならない。てんでに自分の場所を占めながら、後に続くものを引き寄…