野の記憶     <15>

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野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿)

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 東京小平市は、武蔵野台地の西側に位置して緑が濃かった。市内の公園にも玉川上水の遊歩道にも豊かに木々が生い茂り、都営住宅を雑木林が覆う。この緑の街に魅かれて哲学者、国分功一郎は移り住んだ。ところが街の雑木林をつぶして道路を建設するという行政案が出た。国分は行政の説明会に行ってみると、それは住民の理解を得たという名目をつくるための「市民説明会」だった。地域住民を何人かメンバーに入れた「審議会」なるものも、一応市民の意見を聞いたという体裁をつくるために使われるが、その内実は住民自治とは程遠く、主権者の市民は決定過程からはじかれている。その正体を知った国分の活動はそこから始まる。が、市は行政プランを進めた。彼は著書「来るべき民主主義」で問うている。「主権者たる国民が決定権を持ちえないで民主主義と言えるか。」

 行政は言うだろう。「市民の意見で政治を行っている、政策は議会にはかり、議員の審議で決定したものだ」と。 では、その議員と議会の実態はどうか。

 「お役所仕事」という言葉がある。古くから使われてきた言葉で、役所の体質を皮肉る言葉だが、今も深刻な実態がある。

 行政をあてにするな、市民で動こう、だが困難は資金だ。市民運動は身銭を切らねばならない。役所は税金をにぎっている。じゃあどうする。

 武蔵野台地の北西に狭山丘陵がある。そこでは「公益財団法人 トトロのふるさと基金」によるナショナルトラスト運動が進められている。「一人の百万ポンドよりも、百万人の一ポンド」を合言葉に広く人々から基金を集め、自然環境や歴史的遺産を買い取って守る、イギリス発祥の活動。

 「トトロのふるさと基金」は次世代のために土地を取得し、森と歴史・文化の保護を進め、これまで四十八ヶ所のトトロの森が誕生した。基金は九億円を超える。埼玉県も「緑のトラスト協会」をつくり、自然や貴重な歴史的環境を県民の財産として保存していくためトラスト運動を展開しているという。

 僕はそれを自分の目で確かめたいと思う。