「この話はすべて遠野の人、佐々木鏡石君より聞きたり。」
と書かれている。岩手の遠野郷は花巻から北上川を渡り、東へ十三里行ったところにある。遠野の「トー」は、もとアイヌ語の「湖」、遠野郷は大昔、湖だったという。
「遠野物語」には、小さな話が集められている。その第53話は、カッコウとホトトギスの話である。
「郭公と時鳥とは昔有りし姉妹なり。」と、第53話は始まる。
文体は文語である。現代語訳すると、こういう話だ。
「郭公(カッコウ)と時鳥(ホトトギス)という姉妹が大昔いた。カッコウは姉であったが、あるときジャガイモを掘ってきて焼き、イモのまわりの堅いところを自分が食べ、中の軟らかいところ妹に与えたところ、妹は、姉の食べているところはたいへんおいしいんだと思って、包丁で姉を殺してしまった。とたんに姉は鳥となり、ガンコ、ガンコと啼いて飛び去っていった。ガンコは方言で堅いところということである。妹は、さては姉は私によいところだけをくれたんだと思い、悔恨に堪えられなくなり、やがて妹も鳥になり、包丁かけたと、啼いていたという。遠野では、時鳥のことを包丁かけと呼んでいる。盛岡あたりでは、時鳥は、どちゃへ飛んでたと啼くという。」
ガンコ、ガンコは、 カッコー、カッコー
ホウチョウカケタは、 テッペンカケタカ
僕が南河内に住んでいた小学六年の時の担任、北西先生は、ホトトギスは、「ホッチョンカケタカ」と鳴くと言った。 鳥の声を人間の言葉のように聞くことを「聞きなし」というが、ホトトギスの鳴き声の聴きなしには「てっぺんかけたか」と「特許許可局」というのがある。「トッキョキョカキョク」、なるほどそう聞けばそう聞こえる。
大和に住んでいた時、初夏になるとホトトギスがよく聞こえる声を響かせて啼きながら空を飛んで行った。夕暮れ時になると、ヨタカがキョキョキョキョと空の一点で啼いていた。夕風が涼しく、山から下りてくる空気は甘かった。
信州に住んで、カッコーをこの季節のみよく聴く。ホトトギスとヨタカはその声を聴くことはない。「土食うて 虫食うて 口しぶい」と聞きなすツバメの飛ぶ姿が少なくなった。