モズのヒナは、その後姿が見えなかった。逃げ込んだ菜花の茂みを調べてみても、姿はなかった。もう生きてはいないかもしれん。餌を食べないで、どこかに潜んでいても、この異常な暑さのなかだ。
そして今朝のこと。
工房の西側に材木置き場として庇を出しているところがある。そのなかでヒナを発見した。ぼくの目の高さの棚状のところ、木材の影に隠れるように、ヒナがじっと動かずにいる。心なしか痩せて、一回り小さくなっているように見える。お前、こんなところに飛び上がることができたんか。
生きていた、よう生きていた。
しかし、ここにいても食べ物はなし、どうするの?
そうだ、キャベツの葉を食っている青虫を餌にやろう。いい思い付きだ、とキャベツの畝に行って、葉っぱを調べたら一匹2センチほどの青虫がいた。それをつかまえ、細い枯れ枝を箸にして虫をつまみ、ヒナのところにもっていった。親鳥でなければ餌は食べないだろうから、親鳥のまねをして、チュウチュウと舌で音を出しながら、青虫をくちばしに近づけると、ヒナはまったく反応がない。もう一度、くちばしに触れるまで持っていくと、ヒナはぱっと飛んで畑の中に降り、またまた姿をくらましてしまった。
風が強くなっていた。午後から雨になるようだ。
しまった、とんでもないことをしたぞ。これから天気が荒れる。せっかく安全なところに隠れていたのに、またも危険にさらしてしまった。
ひょっとしたら、さっきいた場所は親鳥も承知の一時避難の仮の巣で、そこへヒナを連れて行って餌を運んでいたのかもしれない。それを、ぼくは壊してしまった。余計な手を出して、危険をもたらしてしまった。
親鳥よ、ヒナを発見して、も一度、安全な場所に連れて行ってくれ。心がチクチク痛い。余計なおせっかいをしたぞー。