2011-01-01から1年間の記事一覧

「味わわせる」という言葉

英ちゃんから封書が来た。何だろう。 3月11日、大阪・藤井寺の故郷の店で会って、英ちゃんと年彦の三人で食事しながら語り合っていたとき、東北地方に巨大地震と津波が押し寄せ、たいへんな惨劇が起こっていたことは歓談中の三人は想像もしていなかったと、…

[詩の玉手箱] 『知らない自分』(北村太郎)

この詩を読んで、そのとおりだと、ぼくは思った。 数日前に自分の食べたものをおぼえていないし、 どこかへ出かけたことはおぼえているが、 先週あの日、何をしたかぼんやりしていることが多い。 これでは何かの嫌疑を受けて、アリバイをきかれても、実にあ…

たがね

アキオさんの家は里山の際にある。 蝶ガ岳に連なる山のすぐ麓であり、夏は夕方が近づくと山から下りてくるそよ風が涼しく、冬は外壁も内壁もすべて木製の家に薪ストーブが燃えるホットなホームである。 今年はもうストーブに火が入っているということだった…

 理想の庁舎とは

ソバ畑 夕暮れのススキ ロシアのクレムリンを赤の広場で眺めたのは、まだソビエト連邦が健在だった1965年だった。 レーニン廟に詣でる人々や見学者が、赤の広場に長い列を作り、クレムリン、ロシア正教会、見わたす眺めは、ソビエトの威光を放っていた。 ヨ…

 電話の切り方

「スーさんへ 昨日の電話の終わり方、すまんことでした。 サンマが焼けて、テーブルに置かれ、かあちゃん、夕食準備はOKの様子、こりゃ長電話になりそうだと思ったから、早く電話を切ろうと思っていると、なんとなく話し方が不自然になり、気持ちがそれて…

 羅須地人協会での賢治の授業

1926年(大正15年)、三十歳の賢治は花巻農学校教師をやめた。 「この四ヵ年が、わたくしはどんなに楽しかったか。わたくしは毎日を鳥のように歌って暮らした」 農学校をやめる理由の中に、自ら農民の暮らしに入ろうという決意があった。 賢治はひとりで自炊…

 住民投票は市民の政治参加<未来のビジョンを画いて>

安曇野市新庁舎建設の可否を市民の直接投票で決めようではないかという住民投票条例制定の署名運動が始まっている。 安曇野市の借金は、現在900億円。 そこへもってきて安曇野市新庁舎の建設計画は80億円と見込んでいる。 日本の国の借金は、880兆円…

 山のフィナーレ<乗鞍高原・白骨温泉>

乗鞍高原は、紅葉まっさかりだった。 青空の滑り台。 尾根から谷へ、錦の森はなだれ落ちる。 稔りの秋の、やがて来る冬に先駆ける静寂の賛歌だ。 休眠に入る前、 山はフィナーレの大合唱。 一の瀬牧場を歩く。 黄葉の森を編む白樺の白い幹。 あざみ池の澄ん…

 外国人対象の日本語教室が始まった

16日の日曜日の夜7時から始まった。 地元地区の、外国人対象の日本語教室だ。 かねてからやろうと考えていたが、スタートが切れないでいた。 やっと動けるようになり、教育委員会の社会教育課と相談したら、奇しくも二人の人が同じように教室を開こうと準備…

 『田舎のモーツアルト音楽祭』全校生徒のレクイエムがすばらしかった

生徒合唱 校庭の彫刻 校庭にある碌山の彫刻「坑夫」 図書館においてあったチラシを洋子が持ち帰ってきて、見ると『田舎のモーツアルト音楽祭』とある。 会場は穂高東中学校で、生徒の発表と、招待演奏家の演奏の二部構成になっている。 最初この音楽祭が、尾…

宮澤賢治の思想と東日本大震災

この夏に出版された山折哲雄の新しい本、「往生の極意」(太田出版)を読んでいる。 宮沢賢治は、明治三陸沖地震が襲った年に生まれた。地震と大津波が二万二千人の命を奪い取ったその二ヶ月前に誕生し、誕生四日後に内陸直下型の陸羽大地震が襲う。 賢治が…

 久しぶりの山道

「小さな同窓会」があって、十人の旧同志たちが、ピラタスの丘の「ひこう船」に集まった。 波乱に富んだ夢の、「梁山泊」か「井岡山」か、胸躍らせたそれぞれの人生を振り返り、 希望と矜持、悔恨と責任、 自由奔放に話は夜中の3時まで続いた。 翌朝、秋は…

  灰燼の中から不死鳥のように立ち上がる <ウェストンも日本で地震を体験>

ここ数日、地震が連続している。震源地は長野県北部。 TVに、あの不安な地震予報のコールサインがなり、「強い地震が来ます。」と知らせた。 四回だけ、一瞬グラッと来た。やっぱりドキリとして不安が襲った。 グラッと来ると大急ぎでドアを開けて逃げ道を…

 日本語教室への一歩

二十歳ぐらいの彼はまだ少年の面影があった。 中国労働部(労働省)の青島研修所で一心に日本語を勉強する彼は希望に燃えていた。 午前中は私の日本語の授業、午後は中国人教師の授業、学習期間は二ヶ月間。 生徒たちは専用の宿舎に合宿し、夜の自習の時間も…

 薪づくりと初冠雪・初霜

ログビルダーのケイタ君が、伐採した2本のナラの樹を運んできてくれたのは、一月ほど前だった。 建築現場で切り倒された後、寝かされていたのか、樹肌に苔がついている。 工房に設置した薪ストーブの薪に持ってきてくれたのだが、二本とも直径30センチほ…

 犬と受刑者の愛情が運命を変える

暴力行為を繰り返してきた、 強盗を犯した、 人をナイフで刺し殺した、 そのような罪を犯した若者の受刑者が収容されている刑務所で、虐待されてきた犬や捨てられていた犬を服役者が世話し、訓練して、人間を取りもどしていくドキュメンタリーだった。 秋の…

 初めて観た「チョウゲンボウ」

視界をよぎったスマートな鳥、例の鳥ではないか。 例の鳥、それは二週間ほど前、朝の道を歩いていると二百メートルほど先の路上にカラスが二羽おり、それをめがけて上から急降下して威嚇している鳥がいた、その鳥の姿が頭をかすめた。 カラスよりも少し小柄…

 小説「逸見小学校」

65年間も作家の書棚に眠っていて未発表の長編小説がこの夏、出版され本になった。 作家は庄野潤三。発見された小説は「逸見小学校(へみしょうがっこう)」。 180枚の原稿用紙の作品のうち途中3枚が行方不明になっていて、そこだけ話が飛ぶが、物語の…

 道の分岐点に立って選ぶ一本の道

今日が最後の授業になるから、何かメッセージはと考えて、小澤征良のエッセイに出てくる一片の詩「行かなかった道」を生徒たちに贈ることにした。それは筑摩書房の教科書に掲載されていたものだった。 「自分の最高の字でノートに浄書しましょう。」 ぼくは…

*[暮らし] 柿の実、ナツメの実 1本の彼岸花 三年ほど前に苗を植えた一本の富有柿が、今年10個ほど実を付け、そのうち落果しないで生き残った青い柿は5個ある。 人間の背丈ほどに柿の木は育ち、その枝に5個の実。 実はつややかな緑の葉っぱと同じ色をし…

 直接民主主義の住民投票を!

安曇野市が、80億から100億円をかけて、新しい市庁舎を建てようとしている。 市長・市議会が先導して建設用地も決め、庁舎の設計案も業者に依頼して選考し、いつのまにか安曇野に不似合いな庁舎ビルの青写真が市民のよく知らないところでするりするりと進ん…

 自然の摂理を崩壊させる文明

詩人の坂村真民さんは、日本が高度経済成長期にあった1970年代、こんな気づきをなさっていた。 「このごろの日本の子どもたちの面相が変わってきた。明治生まれの者には自然というものが、体に付着していた。わたしなども学校の行き帰りはもちろん、帰ってか…

 どうしたらいいのだろう(2)<高校生の葛藤>

高校に入る前は進路のことでとても悩みました。 パティシエールになろうか、介護士になろうか。 私は菓子作りが好きです。いつか本場に行って修行して、私がつくった菓子を食べてみんなが笑顔になって、おいしいと言ってもらえるような、お菓子を作りたいと…

 子どもの遊び 草の相撲、草のワナ

今年は、ヒメジワという草が畔やら庭やらいたるところに生えている。イネ科の草で、丈が10センチから50センチになる。ヒメシバとも呼んでいる。茎の先から花穂が3から8本伸びる。 畔の草刈りをして、しばらくしたらまたこの草が一斉に生えてくる。 ヒメジワ…

「どうしたらいいのだろう」

自分は今、何のために生きているのかを考えて悩んでいます。 子どもができる前って、何億の精子が卵子に向かって行きます。 そしてそのたくさんの精子の中で、僕が生き残り、生まれてきました。 ですが、本当に僕でよかったのか、と考えてしまいました。 も…

 「風景は思想である」 学校林、寺社林、屋敷林

かつての日本の、暮らしと調和した田園と村の風景が、どうしてこうも魅力のない不協和音のようなものになってしまったのかと、安曇野においてすらあきらめに近い思いをぼくは持っていた。 93歳にして好奇心、創作意欲ともに盛んな画家の堀文子が、 「風景…

 小説『羅生門』  飢え死にするか盗人になるか、葛藤を考える

夕暮れ、羅生門の石段に座った下人は、雨のやむのを待ちながら途方にくれて考える。主人にひまを出されて今は無職、家も金も食べるものもない。 「クビにされたんだ。」 「ホームレスですね。」 「現代のホームレスなら、食べ物は何とか得ることが出来るよ。…

 鉢呂氏辞任を考える

夏休みが終わって二学期が来た。 日に焼けた女生徒の顔を見て、「黒くなったね」と言ったとたんに、彼女は腹を立てて行ってしまった。 侮辱されたと思ったらしい。 乙女心を無視した発言だったのかもしれない。青年教師のころである。 あるとき、ある言葉に…

 サツマイモ収穫と種まき

サツマイモの葉っぱがチッソ過多か、茂りに茂った。 出来具合を見ようと、ためしに掘ってみたら、長い蔓をつけたままの株がすこんと抜けて、イモのかけらがちょろっと付いているのやら、全くイモの姿のないのやら、大きいのが空洞になっていたりする。 やら…

 南紀の山と川

のろのろ台風が、しこたま雨を降り注ぎ、南紀の山あいの村々は洪水に飲み込まれた。 昔、生徒たちを連れて、山から山へ歩いた、台高山脈、大台ケ原、大峰山脈は、 昨日あたりからやっと秋晴れになっていることだろう。 ぼくの人生に深く刻みこまれた、紀伊山…