子どもの遊び 草の相撲、草のワナ

今年は、ヒメジワという草が畔やら庭やらいたるところに生えている。イネ科の草で、丈が10センチから50センチになる。ヒメシバとも呼んでいる。茎の先から花穂が3から8本伸びる。
畔の草刈りをして、しばらくしたらまたこの草が一斉に生えてくる。
ヒメジワの仲間にオヒジワという草があり、形態はよく似ている。ヒメジワが女なら、オヒジワは男、花穂が太く茎もがっしりして強靭だった。
オヒジワの別名は、オヒシバとチカラグサ。
なるほどチカラグサだと思う。昔、この草を乾かして編んでかごをつくったり、紙の原料にもしたりしたという。牛が好むので飼料にもした。
今年の草の様子は、圧倒的な数のヒメシバに少数のオヒシバだ。草取りをするとき、オヒシバはチカラグサの名の通り、少々の力ではちぎり取れず、根っこからも抜けない。


子どものころ、このチカラグサでよく遊んだ。友だちとこの草で、相撲をとる。
原っぱから強そうなのを茎の途中でちぎり取り、花穂を指でもってくるりと結ぶ。
それぞれの結び目をつくったチカラグサを持ち寄って、対戦相手のチカラグサの結び目に自分の草の茎を通す。
一対一の勝負。こうして茎を引っ張り合う。
ぷちり、小さな音を立てて、どちらかのチカラグサの花穂が結び目からちぎれ落ちると、勝負あり。
ぼくはこの草相撲が強かった。
自分の草の結び目に相手の草の茎を通すとやられることが多く、こちらの茎を相手の結び目に通すようにすると勝つことが多い。もちろん、草原の中から、丈夫そうなのを選ぶことが第一であったが、組み合うときの作戦も影響した。それを知らない子どもは簡単に負けてしまった。
大人になってからも、のんびり野原を散歩しているとき、チカラグサを見つけると手が動いて、一本折りとってくるりと結び目をつくってしまう。子どものころにしみついたものは消えない。


チカラグサを使った遊びでもう一つ、男の子の血を沸き立たせた遊びがあった。
「探偵ごっこ」とか、「くちくほんかん」とか、野原で集団で遊ぶ広域ゲームが、男の子たちは大好きだった。
前者は、探偵と盗人にわかれて、探偵チームが盗人チームをつかまえに走り回る。後者は、軍艦の種類に分かれて攻撃したりする遊びだった。
野原で遊ぶとき、相手チームが走ってくるその足をすくうために、草のワナをつくる。それがこのチカラグサだった。生えている草の二株の茎の先端を束ねて結ぶ。すると地面の上に草の小さなアーチが出来る。走ってくる相手の子は、その草のアーチに足を突っ込むと、足をとられて前のめりに倒れるというわけだった。
いくつも、そういうワナをつくるのだが、相手の子らはそうは問屋が卸さない。相手を倒すのは容易ではなかった。しかし、ワナを作ることの、ワクワクドキドキ感がたまらなかった。


近くに大豆畑がある。昔は田んぼの周囲の畔に植えられることが多かった。
子どものころ、この葉っぱを使って音を立てた。左手の親指と残りの指とを円くして、手の指で筒状をつくる。大豆の葉は大きく、その葉っぱをその指の筒の上に乗せると子どもの手を隠してしまう。右手の指で葉っぱを少し穴の中へ押し込むようにして真ん中をへこます。
そうして葉っぱのくぼみめがけて、右手のひらを打ち下ろす。たたかれて葉っぱのくぼみに入っていた空気が破裂して大豆の葉を破る。パーン。
それが遊びの合図であった。


夏も冬も、子どもたちは汗を噴き出して、野山で遊びほうけた。
遊びが子どもたちを鍛え、強靭な体をつくった。
観察し、作戦を考え、協力する。
遊びが子どもたちを虫や草、木や土や川の生き物を友だちにした。