初めて観た「チョウゲンボウ」



視界をよぎったスマートな鳥、例の鳥ではないか。
例の鳥、それは二週間ほど前、朝の道を歩いていると二百メートルほど先の路上にカラスが二羽おり、それをめがけて上から急降下して威嚇している鳥がいた、その鳥の姿が頭をかすめた。
カラスよりも少し小柄で、翼が細長かった。カラスを襲う鳥がいるとは驚きだった。
そのときの観察では、鳥はカラスの頭上から再び空に舞い上がり、二度目の急降下をした。キッ キッ キッ、その鋭い声を聞くと、ケリではないか、と思った。美濃地方の稲刈り後の田んぼにはテリトリーを持つつがいのケリがいて、人や動物が近づくと、飛び立って威嚇鳴きをする。ケリはチドリ科の鳥だが、なかなか攻撃性が強かった。
ケリだろうか、だが、この安曇野ではこれまでケリを見たことがない。ケリがここにもいるのだろうか。それにしても、この鳥、カラス相手に強いなあ、とか思いながら、同じような場面がないかと注意することにした。攻撃された図太いカラスは戸惑うようだったが、仕方なくという感じで飛び立っていった。だいたい、カラスはトンビにも攻撃をかけるし、群れをつくって集団行動を行い、猛禽類も恐れないところがある。
先日そういうことがあって、今日視界をよぎったのは、その攻撃していた鳥のように見えた。
ところが今日のケリらしき鳥、最初はカラスの群れに追われていたように見えた。はて、と飛び去った後を目で追うと、稲刈りの済んだ三百メートルほど向こうの田んぼには、数十羽のカラスが群れて鳴き交わし騒いでいる。しばらく見ていたがケリのような姿はない。
数時間後、再びその鳥らしき姿が一瞬、庭の上空から隣の家のほうへ飛んだ。ムクゲの木の枝間からのぞくと、おっ、いる。
隣の家の窓の二階のひさしに下りて、何かを食べている。くちばしで獲物の毛をむしりとっているようで、毛のようなものが振りあげたくちばしから飛んでいる。
しばらく眺めていた。獲物はネズミかモグラか、小動物のようだ。
そうだ、双眼鏡をもってきてもっとよく見よう。体を隠して家に入り、双眼鏡を持ってくると、またムクゲの陰からのぞく。翼の斑点、食べる動作、まぎれもないタカの仲間だ。ケリではなかった。
獲物の体が赤い。鳥の目の上から頬を下へ、黒っぽい筋がある。くちばしの付け根の鼻の孔あたりは黄色っぽい。
胸に黒っぽい筋があり、尾羽が長い。
獲物を食べ終わった鳥は、しばらくひさしの上で休んでいたが、飛び去っていった。
鳥の姿を眼に焼き付け、家に入って、野鳥の本を調べた。
タカの仲間には違いがない。写真と説明を調べていくと、出てきた。
チョウゲンボウ
ハヤブサの一種。
空の一点でホバリングして獲物を探し、急降下してつかまえる。飛ぶスピードは、ハヤブサだから速い。
この鳥は、カラスやタカの仲間のノスリの巣に卵を産むという。托卵。


きょう、はじめて見た、チョウゲンボウ