直接民主主義の住民投票を!



 安曇野市が、80億から100億円をかけて、新しい市庁舎を建てようとしている。
 市長・市議会が先導して建設用地も決め、庁舎の設計案も業者に依頼して選考し、いつのまにか安曇野に不似合いな庁舎ビルの青写真が市民のよく知らないところでするりするりと進んでいる。
 900億円を超える借金が市の財政を脅かしているということなのに、市民の意見も聞かず、建設はとんとん既成事実を積み重ねて進められていく。
 大多数の議員たちはいい気なものだ。国から補助が出るから、それを使わない手はない、と。
 五つの町村が合併してできた市だから、五つを統合する機能を持ったシンボル的な総合庁舎が必要だ、と。
 「ちょっと待った」の声を上げる人たちが、ようやく市民の中に生まれた。
 未来の子や孫に借金の重荷を背負わすのか。庁舎の建物よりもやらねばならないことは山ほどあるではないか。今の庁舎でやれないことはないではないか。
 何より重大なのは、行政が市民の意見を聞かないでやろうとする姿勢だ。
 市議会の中の少数の議員からも反対意見が出はじめ、庁舎建設の賛否アンケートがとられた。返ってきたアンケートの結果は新庁舎建設に反対が圧倒的だったが、市長ら賛成の人たちは市民の意見を黙殺した。


 こんなことでいいのか、
 市長任せ、議会任せ、お役所任せでいいのか、
 市民の知らないところで政治が行なわれている。
 それなら住民投票をやろうではないか。


 そうすると、議会制民主主義をないがしろにするのか、と言う。
何も知らない愚民による行政介入だ、と言わんばかりだ。
 とんでもない。これは直接民主主義だ。
市民から負託を受けているはずの議員たちが、市民から意見を聞こうとしないなら、直接住民投票をやろう。
賛成にしろ、反対にしろ、主権者は市民だ。住民が責任を持ってその意志を行政に反映させる必要がある。
何より大切なのは、いろんな意見を出し合って協議し、いちばんいい方法を考えていく過程なのだ。協議するなかから新たな智恵が生まれてくる。


 今、そういう動きになりつつある。
 そうして、土曜日の午後、市民主催の「住民投票を考える」シンポジウムが企画された。
 ぼくは自転車をこいで行った。
 秋晴れの休日、稲刈りシーズンだ。
 会場についてみたら、閑散としている。どういうことだ、公民館の大ホールがぎっしり満員だろうと予測して行ったのに、参加者は20名程度しかいない。
 こんなことで運動が進むのか。


 パネラーは二人。
 佐久市で行なわれた住民投票の結果、佐久総合文化会館の建設がストップした経緯とそこに現れた思想を語った佐久市議員の小山仁志氏、
 そうして大阪から駆けつけてきてくれた、日本と世界の住民運動を取材して新たな運動に結び付けている今井一氏。
 二人の熱弁は、感動的だった。
「この運動は、どこも少人数から始まるのです。原発立地の自治体住民が起こす運動も、二人や三人から始まって、大きなうねりになっていったのです。日本では、この15年間に、400件を超える住民投票が行なわれています。アメリカ、スイス、そして日本です。」
 がっかりする必要はない。ここにいる少数の人たち、みなさん、ここから始めましょう。
主催者の気持ちを奮い立たせ、その背中を強く押す、友情あふれる応援演説だった。
 人数の多さよりも志が重要なのだ。悲観することではない。


 折りしも19日、東京で行なわれた原発反対の集会「さようなら原発」には6万人が集まった。
 もう政治家には任せておけない、自分たちの意志をあらわして、国を動かしていこう、という「直接民主主義」の動き。
 大阪、東京でも、これから関西電力東京電力原発に対して直接の意志を表明して、政治に関与していくのだという動きも出てきた。
 直接民主主義が始動しなければ、この闇を切り開けない。