犬と受刑者の愛情が運命を変える

暴力行為を繰り返してきた、
強盗を犯した、
人をナイフで刺し殺した、
そのような罪を犯した若者の受刑者が収容されている刑務所で、虐待されてきた犬や捨てられていた犬を服役者が世話し、訓練して、人間を取りもどしていくドキュメンタリーだった。
秋の夜長、録画してあったこの映像には胸打たれた。
刑務所に入って撮影し、顔のぼかしはせず、受刑者本人が自分の過去をありのままに語り、さらに受刑者の家族を訪ねた取材もオープンにしている。
あるアメリカの刑務所で行なわれているプログラムだった。
犬を飼うことで受刑者の更生を図る大胆なアイデアを実行に移している刑務所、その内容を公開したことにまず驚く。


受刑者の若者たちが刑務所に入った時の表情は暗く冷たかった。
虚無と怒り、絶望が、体中からにじみでていた。
親の愛情を受けてこなかった若者、親から捨てられ、暴力とドラッグにはまり込んできた青年、
彼らは一人一頭の犬を世話する。
プログラムは、飼い主に虐待されたり、捨てられたりしていた犬の収容されている保護センターから、不幸な犬を刑務官が貰い受けてくることから始まる。引き取り手がなかったらいずれ処分される運命の犬たちだった。
受刑者は、自分の世話する犬に名前をつける。その命名にも若者の過去への思いと願いが投影する。
虐待されてきた犬は、受刑者が近づくだけで怯えた。
「おれの過去と同じだ。」
受刑者の青年は、犬と自分の過去を重ねる。
餌を与えても隅っこから出てこず、受刑者が犬舎を離れたら食べ始める犬。
なつこうとしない犬にいらだつ若者、自暴自棄になって暴れた過去が、再び現れないかと見ていてひやひやする。
だが、若者たちはねばりづよく犬に寄り添いつづけた。
かつては思うようにならないことに腹立ち、暴れた。
しかし、今は犬の心を開くことに心を砕く。
やがて犬との距離が縮まっていく。
犬は人の脇にくっついて歩き、「待て」「伏せ」などの行動ができるようになっていく。青年たちは、犬舎を掃除し、糞をとり、体を洗い、スキンシップをする。
両者互いの信頼の回復と愛情の交流が高まっていくにつれ、犬は人間に応えるようになった。
三ヶ月ほどの訓練期間に、犬は見事に人間のパートナーとして行動できるようになり、新たな家族の一員としてもらわれていく。
これから飼い主になる、幼い子どものいる家族は、刑務所の芝生の庭で、青年から直接犬を受け取る。別れは悲しいが喜びでもあった。
犬と別れた青年は、自分の心の中に生まれてきた慈しみの感情にしばらくひたる。そしてまた新しい不幸な犬を迎えるのだ。こうして刑務期間に何頭もの犬を育てて送り出す。
あるとき、青年たちの手から出発していった犬たちのその後を撮ったビデオが、集まった青年たちに映写された。
それに見入る彼らの顔は、入所のときの顔とはすっかり変わっていた。
笑顔、歓声、
会話を失っていた青年の口をついて出る、喜びの言葉、
愛するものをもち、愛される自分を知った、顔の豊かさだった。
なんという更生力だろう。心の変化、心の育ち。
教育力という言葉はなじまない。教えるという作用ではない。
人間を取りもどしていくのは、自分とパートナーの犬とが、新しい幸福な未来を取り戻そうと、目的をもって積み重ねていく日々の営みの力だった。
先の映像の中で、犬を受け入れた新しい家族は、青年にメッセージを送る。家族の一員になって愛されている犬の姿を示しながら青年の名を呼び、「すばらしい犬をありがとう。」と。
犬と暮らし、刑期を終えて出所していった青年たちは、再び犯罪をおかすことはなく、社会に復帰しているという。


このドキュメンタリーの映像は、実にたくさんの心を伝えてくれる。



    ★     ★     ★