暮らし
昨日、やっと黒豆を全部収穫してきた。すでに枯れている根本の茎を鎌で切って、乾燥した豆のカラカラと鳴るのを束ねて車に積んで運んだ。今年もいつものように、ブルーシートを広げ、その上に台の板を置き、豆の木を載せて竹刀で叩く。今年はどれだけ採れる…
ミヨさんから電話がかかってきて、ちょっと来てくれと言う。 サンダルをひっかけて、痛む膝を気にしながら、お向かいの家に入った。どうしたの? 「どろぼうが、はいった」 「えっ、それはいつ?」 「ゆうべ、夜中、財布がない。さがしたが無い。」 「警察に…
日が昇るまでの朝の涼しい内に、黒豆畑の草を鎌で刈る。二時間ほどのこの作業はここ5日間ほど、続けてきた。 金曜日、草取りから帰ってきて作業着を着替えた。ズボンを脱ぐと、両足首周りに赤い斑点がプツプツあり、足首がいくらか腫れている。ダニか? 噛…
「暑いですねえ、たまりませんねえ。」 会えばこのあいさつ。 でもこの熱射のなか、トマトもキウリも次つぎと稔り、毎日もぐのが楽しみで、隣近所におすそ分けしている。トマトはいろんな種類の苗を12本、歯医者の布山さんからいただき、去年もそうだった…
昼下がりの野道を、杖をついて歩いてきた人、誰かと見れば長瀬さんだ。 「こんな日中に、いったいどこ行くんです。気温35度越えてますよ。」 「車、出してくれと家内に言ったんだけどね。車は出さんいうから、歩いて来ただ。」 長瀬さんの家からここまで一…
ミヨコさんの家の高木から、美しいさえずりが聞こえてきた。ときどき山手の方で聞くことがある、その鳥が何なのか、姿は見えず、分からないまま、さえずりだけを耳にする。そのさえずりを聴くと、足を止めて聴きほれる。複雑に変化するメロディは、ヨーロッ…
戸棚の奥の方から、古ぼけた一本のビンを家内が引っ張り出してきた。 「こんなのが出てきた。」 見ればワインか何か、酒のビンだ。ほこりもついた、色あせたレッテル。 「あー、それかいな。」 さよう、奈良の御所から持ってきた、あのナゾの古酒。まだ、そ…
昨夜は風が強かった。今朝の雪原は風に流された積雪が風に固められ、風紋ができている。風成雪だ。 雪上を歩いた人や犬やキツネの足跡はすべて消え、新たな雪野に変わっていた。 ここ数日の冷え込みは鋭かった。 いちばん冷えた時は氷点下14度だった。暖房…
年の暮れは、春を迎える準備にあれやこれやとやることがあった。 東西に伸びる畑の畝(うね)の、天地返しは冬耕と呼ぶ。スコップの上端を右足で踏んで土に刺し込むと、畝の南側ではぶすりと入り込むが、北側ではもう凍土になっていて固い。わずかな畝の高さの…
近くにある希少な雑木林。希少というのは、まったくおかしなことだが、安曇野の田園地帯に、自然な雑木林がもう見当たらないのだ。だからこの小さな林のクヌギの木へ、夏の早朝にカブトムシやクワガタを捕りに来る子がいるのだが、すでに誰かが捕った跡があ…
朝霧のなかをランと散歩する日が増えた。 最近、朝霧が多い。 朝の気温も零度下になった。 白樺もヤマボウシも、カツラもハナミズキも葉を落とし、冬眠に入った。 9月終わりに種をまいたリーフレタスが、いっこうに芽を出さず、 一か月ほどしてから、かすか…
台風が過ぎ去り、 この地域はリンゴの落下もなく、ほっと安堵したが、 信州のあちこちで被害が出ている。 故郷の大和川や石川は、増水して一部氾濫したようだ。朝、ランちゃんとの散歩で北の地平線を見ると、 白馬連峰が白い。早くも雪が来た。 白樺の木は、…
おいしいトマトを今も食べている。夏の盛りから毎日のようにトマトとキュウリを食べてきたが、トマトとキュウリがこんなによく実り、こんなによく食べたのは生まれて初めてだ。トマトは歯科医の布山さんからいろんな種類の苗を十数本いただき、それはみんな…
二日前に久しぶりの雨が降って、やっと乾燥した畑がうるおった。まいた黒豆が少ししか芽を出していないから、もう一度芽の出て来ないところに種を播いた。そこへ雨が来たから、これで何とか新しい芽が出て、いくらか収穫できるかな。 今年は梅の実がたくさん…
「この前、どっかへ出かけておられました?」 「いつ?」 「日曜日は日本語教室からの帰り、月曜日はコーラスからの帰り、夜の九時ごろ。」 「どこかへ行ってたかねえ。どこだろ。」 「わたしが帰ってきたら、電気が消えて、真っ暗だった。」 「ああそうそう…
どこへいったんだろう。 ニットの帽子がない。 耳も凍えるほど寒く、 特に吹雪の日には、 耳もおおえる、柔らかくて暖かいその帽子が役にたった。 どこへいったんだろう。 遠くまで朝の散歩の足を延ばし、 帰り道は頭に汗がにじみでた。 あのとき、帽子を脱…
ジャガイモの二畝をやっと掘り切った。 ドイツの旅から帰ってきたら、黒豆畑の草は腰の丈ほどにもなっていた。あまりにひどい。 「怠けたらこのありさまです」 と、クルミのおばさんに言い訳したくなるほど。 それを取り切ってから数日後、大阪で滝尾君と森…
今年はドクダミの乾燥がうまくいった。ドクダミ茶にするには、花の時期の今がいちばんいい。 庭に広がって咲いているドクダミの花から10センチほど茎を摘み取る。それを使わなくなった古い網戸を利用して干す。網戸は物置に置いてあるのを4枚出してきて、…
今朝、子どもたちの通学路になっている野の道を行くと、道端に立てられた太陽光発電の外灯のうえに、タカが一羽とまっていた。すぐ横をランを連れて通り過ぎたが、タカは動かず、平然としてあたりを眺めていた。ノスリ? タカの一種が頭に浮かんだ。が、ほん…
2メートル近くに育っていたトキワマンサクの樹が、幹の真ん中でぽきりと折れて、樹の先端が地面についていた。先だっての雪が樹の上部の枝に降り積もって塊となり、その重みに耐えきれずに折れたのだ。気温がぐんと冷えて降る雪は軽く、大量に枝にとどまらず…
早朝、氷点下の野の雪は硬く締まって、五月のアルプスの稜線の雪のように歩いても靴が沈まなくなった。道も田んぼも何もかも、白い平原になり、気の向くままにどこでも雪上を歩きまわる。ランも雪の野を自由に走り回り、ときどき雪に鼻を付けて匂いをかいで…
ここ数日の積雪は50センチ近くある。雪かきが一仕事だ。我が家の横の通りは、舗装された道路で隣町からの抜け道になっていて、通勤時間になると通り抜けていく車がやってくる。南岸性低気圧がやってくるという天気予報があった日の夕方から雪が降り始め、夜…
昨日の大みそか、孫たちはテレビを見ていた。大人たちは、シャンパン、清酒、どぶろくを飲んで、年越し蕎麦を食べて、談論風発の後、「カンタータ 土の歌」から「大地讃頌」の家族合唱をした。息子二人と次男の嫁とぼくたち夫婦、5人がソプラノとバスに分か…
緑枝はんが旧制中学の時に使っていた竹刀が役に立ちます。毎年この季節になると、緑枝はんの竹刀を出してきて、豆打ちに使うんです。 10年前、ぼくらが金剛山の麓の村から安曇野に引っ越すとき、緑枝はんの竹刀も、家財道具と一緒に入っていたんです。引っ越…
小学一年生の孫娘が秋休みで兵庫からやってきて、ジイジ、バアバとこの一週間暮らしている。 孫娘の学校には秋休みというオリジナルな制度がある。昔は農村部の学校に、稲刈り期を休みにする農繁期休暇があったが、そういう休暇ではない。一般の小学校では一…
ひざに、お灸をすえたらどう? 家内がそう言って、 長らくやっていなかった「せんねん灸」を、どこかから出してきた。 箱を開けたら、以前の使い残しのお灸がたくさん入っている。 お灸の本も一緒に出てきた。 ひざ関節に効くツボは、どこかいな。 軟骨すり…
庭から声が聞こえてきた。 庭に出ることができたんだ、ほっ、安堵した。 今日は、別の病院へもう行かないと言う。 行く気が起こらないと言う。 かかっている医者へも行かない、新たな病院へも行く気にならない。 薬も飲むのをやめる。 そう思うのならそうす…
朝早く、電話がかかってきた。 消え入りそうな、しゃがれた声で言う。 ねえ、もうだめかもしれないのよ。 食べられないし、 歩けないし、 目も見えなくなったよ。 もう、わたしだめみたいだから、 あと、お願いするね。 お別れのあいさつみたいだ。 すっかり…
何かの動物の頭蓋骨。ハクビシンかキツネか、なんだろう。 常念山脈から流れ落ちる烏川渓谷まで登り、ぐるっと回って帰ってくる朝のウォーキングができなくなった。 8月に入った頃から、左ひざに痛みが出るようになり、どこかいい医者はいないかなと、散歩し…
畑から人声がする。 案山子(かかし)が三体、思い思いの服装をして立っている。 右手にジョウロを持った案山子もいる。 日傘が三本、案山子から離れて、 これまた思い思いの場所に立っている。 一枚の畑の一角に支柱が並び、トマトが十本ほど、 緑の色を濃…