賀春


 年の暮れは、春を迎える準備にあれやこれやとやることがあった。
 東西に伸びる畑の畝(うね)の、天地返しは冬耕と呼ぶ。スコップの上端を右足で踏んで土に刺し込むと、畝の南側ではぶすりと入り込むが、北側ではもう凍土になっていて固い。わずかな畝の高さの差が、日当たりの差となり、日の当たる南側は土が柔らかく、北側は固く凍っていた。
 元旦、よく晴れた。
 東の山は美ヶ原、標高二千メートルを超える高原。その南部、高原の切れる鞍部(あんぶ)から朝日が昇ってくる。
 西の山は常念岳、日の出の前、その頂をモルゲンロートが染め始め、その日の出の予告は山肌を急ぎ下りてきて、日射しが我がいる位置にぐんぐん近づくとみるや、東の美ヶ原鞍部に光彩が燦然と空に輝く。日輪はみるみる鞍部を脱して全身を現わす。その瞬間、顔から体にほのかな日光の温みを感じる。
 ランはもうすぐ13歳になる。犬の年ではもうおばあちゃんだが、少しもそうは感じられず、いまだにお嬢だ。雪や冷雨の日は家のなかで家族と居り、ぽかぽか日射しのある昼間は、庭に出て、黒毛に日を吸収して眠り、ときどき起きて緑の冬草や木の枯れ枝をかじっている。

 元旦のさわやかマラソンが企画され、2キロコース、3キロコース、5キロコース、それぞれ参加者は選んで、拾カ堰沿いの道を走った。二百人ほどが参加した。
 息子と孫たちも、「よーし、いっちょうやろう」と、4歳の孫娘は2キロを走った。4年生と5年生の孫たちは3キロコースを走った。上の息子は5キロコース、下の息子の嫁は2キロコースに参加して、4歳の孫娘の母として一緒に走った。みんな完走した。快哉