雪原


 昨夜は風が強かった。今朝の雪原は風に流された積雪が風に固められ、風紋ができている。風成雪だ。
 雪上を歩いた人や犬やキツネの足跡はすべて消え、新たな雪野に変わっていた。
 ここ数日の冷え込みは鋭かった。
 いちばん冷えた時は氷点下14度だった。暖房なしの部屋は1度か2度。濡れ雑巾がコチコチになっている。
 この季節、田畑には作物は何も植わっていない。雪原は遠くまで広がる。
 ぼくは、動くものはないか、キツネはいないかと、しばしば360度を見まわす。
 はるかに離れたところを動くゴマ粒のような人影も眼はとらえる。二人連れのようだ。
 リードをはずし、ランを自由にして走らせる。ランは疾駆し、立ち止まっては鼻を雪の中に突っ込む。わずかな枯れ草をくわえて口に入れている。
 ランが疾駆する姿は美しい。前脚と後脚が前後に伸びて雪上を跳ぶ。
 日の出は遅く、まだ7時を回る。
 自由に野を走る喜びがランの身体に満ちる。ぼくは田んぼの畦に身を隠す。ぼくの姿を見失ったランは、辺りを見回し、感覚を集中し、こっちだと感じた方へ走る。
 かくれんぼが終わり、帰路につくころ朝日が顔を出した。