日本社会

岩手の歴史

十五年戦争に、もっとも多くの、屈強な兵士を送り出した岩手県。 貧しい山村では乳児死亡率が高かった。その中を生き抜いた子どもはそれだけ頑健だったから、強靭で忠勇な農民兵士となった。激戦地に送られた彼らはほとんど戦死した。 国家主義思想が学校に…

ベトナムからハー君が来た

昨日、お昼前に電話がかかってきた。声のトーンから誰か分からなかった。 「ハーです。ベトナムのハーです。」 「ハー? ああー、ハー君。」 今、日本に来ている。会いたいと言う。どこにいるのか聞くと、豊科駅だ。 技能実習生として日本に来て、明科の建設…

今、「ペスト」を読もう

<これが日本の現実だ。この木を見よ。> ニュースを読んでいてこんなことを知った。 コロナウイルスの感染拡大を受けて休校しているイタリア・ミラノの高校の校長が、学校のホームページ上で生徒に向けて書いたメッセージが話題になっているという。ドメニ…

ヘルマン・ヘッセの訴え

ドイツ人のヘルマン・ヘッセは、第一次世界大戦のとき、スイスに住んでいた。戦争が始まり、ヘッセはこの戦争は不可避だと思い、自分も志願兵になろうとした。だが強度の近眼であったから、兵士になれなかった。 ヘッセの考えが変わったのは、ドイツが中立国…

車優先社会の実態

今日は看板を作った。 風が冷たくて、凍えそうだが、ギコギコ木を切って看板を作り、文字を書いて、支柱に打ち付けた。 それを立てるところは、家の前の交差点の角、 看板の文章は、 「この先、生活路です。 事故が5件、起きています。 ゆっくり行ってくだ…

震災地に学ぶ修学旅行

ぼくはこの提案に賛同する。池澤夏樹の提案である。(2月5日 朝日新聞) それは去年の十一月に仙台市のシンポジウムで、池澤が提示した修学旅行のプランだ。 南海トラフの巨大地震が近未来に起こると予想されている。起きれば恐ろしい結果を引き起こすことも…

あやしい話

日曜日の午後、「野の学舎」に、きのこ栽培の会社に来ている実習生のディン君が日本語の勉強に来た。午後二時に来るというので、薪ストーブに火を入れておいた。やってきたディンは燃えているストーブを見て、うれしそうな顔をして写真を撮った。亜熱帯のベ…

日本という国

昨夜から朝まで雪が降り、数センチ積もった。 道から家のポストまで、雪の上に足跡が残っていた。新聞を配達してくれた人の足跡だ。早速、新聞を読んだ。 日本の現状、日本の未来への不安、いくつかのデータが取り上げられていた(朝日新聞)。 ◆「世界経済…

「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」

久しぶりに古本屋に入ったら、あの本の背文字が目に飛び込んできた。 不思議なんだなあ、向こうの方から飛び込んでくる。 題名「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」(加藤陽子) この本、新聞の広告欄で見た時、読みたいと思った。が、最近はほとんど図書…

「ひきこもりの国」  <8>

元政府高官だった男性が、ひきこもりの息子を殺害したという事件が起きている。男性は70代、息子は40代、度かさなる息子の暴力に怯え、発作的に殺害に及んだらしい。この悲劇に至る前に、どこからも救いの手がのべられなかった。息子はなぜ独立すること…

「ひきこもりの国」  <7>

「日本人が夜遅くまで働くのは、働く以外の魅力的な選択肢が不足しているからだ。週35時間労働で、年に6週間の休暇を楽しんでいるヨーロッパとは大違いだ。日本のホワイトカラーは、やるべき仕事があってもなくても、たいてい日が沈んでからもずっとデス…

「ひきこもりの国」  <6>

「日本の若者は、批判的に思考する教育を受けておらず、それを奨励もされていない。権力への反発を示すためのメカニズムも存在しない。故に社会を作り直すのに力を貸すべき20代、30代、40代の人たちがその社会から離脱しようとして、ついには「ひきこもり」…

「ひきこもりの国」  <5> 

福島原発事故の前、2003年に起きていた重大な出来事をジーレンジガーがキャッチした。 福島の原発で、保守点検を担当していたGE社の日系アメリカ人、カイ・スガオカは、GE社を解雇された。それはなぜか。 「スガオカは原子炉に亀裂が入っている様子を映した…

「ひきこもりの国」  <4> 

ジーレンジガーは言う。明治以後の日本は政府主導で国のシステムをつくってきた。その中核に学校制度と教育があり、統制と訓育によって日本国民をつくることを貫徹した。そして強大な力を持つ軍国主義を育てた。 しかし、日本という現実、世界という現実を正…

「ひきこもりの国」 <3>

1999年、引きこもりの息子を持つ60歳の男性がついにタブーを打ち破り、行動に出た。奥山雅久、全国に百万人以上居ると言われる、引きこもりに苦しむ人たちを支援するための親の会の設立だった。「全国ひきこもりKHJ親の会」。奥山が言う。 「日本のシ…

「ひきこもりの国」 <2>

ジーレンジガーは問いかける。 「陰湿ないじめや、すさまじい圧力を受け、あるいは社会への順応を厳しく求められることによって個人の自己表現が抑圧されているのはなぜか。 自前のエッフェル塔を建て、ピザの焼き方やゴルフのやり方を習得し、ヒップホップ…

「ひきこもりの国」 <1>

アメリカの研究家、マイケル・ジーレンジカーが、日本に来て調査研究した報告書「ひきこもりの国」(光文社)は2007年に出版された。その頃、すでに社会的引きこもりは100万人と推定されていた。 それ以後数字は変わらず、現在若手の引きこもりは54万、中高…

アイたちの学校

高賛侑君は、ぼくが担任するクラスの学級委員長だった。ぼくが大学を出て赴任した淀川中学校の二期生であり最初の卒業生だ。 彼は「アイたちの学校」というドキュメンタリー映画を監督して制作した。先日、彼が送ってくれた迫真のそのDVDを見たところだ。映…

16歳グレタさんの胸うつ演説

村のコーラスの会、練習の合間の休憩で、国連の気候変動サミットでの16歳の女性のことが話題になった。彼女の名はグレタ・トゥンベリ。スウェーデンの環境活動家。 「あの子、すごいね。」 「すごいですねえ。」 「16歳ですよ。」 「あの子の表情と演説…

G20サミット

G20サミットの開幕前日、毎日虫取りして育ててきたキャベツや、レタスなど、初夏の野菜を箱に入れ宅配便で息子家族に送ろうと郵便局へ持っていくと、 「明日から大阪はG20サミットで、明日中に届けることはできないかもしれません。二日ほど、遅れるこ…

田中正造の予言

田中正造が、こんな言葉を残していることを、赤堀芳和「欲望の世界を超えて やすらぎの国はいずこに」(講談社)で知った。田中正造(1841~1913) 「今日の日本の、日本の惨状に至りたるも、決して一朝にあらず。 正造に言論の自由なきがごとし。 故に略し…

野の記憶     <16>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <16> 1974年刊行の小説「安曇野」に臼井吉見が書いている。 吉見は陸軍の少佐として本土防衛の任に就いていて敗戦を迎えた。軍は解体され、吉見は安曇野の我が家に帰ってきた。そこで見たのは、戦時中…

野の記憶     <15>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <15> 東京小平市は、武蔵野台地の西側に位置して緑が濃かった。市内の公園にも玉川上水の遊歩道にも豊かに木々が生い茂り、都営住宅を雑木林が覆う。この緑の街に魅かれて哲学者、国分功一郎は移り住…

野の記憶   <9>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <9> 安曇野をめぐる人々の幾人かから安曇野の地と時代を眺めてみる。 明治の時代、相馬夫妻は、小さな私塾・研成義塾を穂高に創り地域の子らを育てる井口喜源治の強力な助っ人になった。キリスト者、内…

野の記憶    <8>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <8> 年を経て、妻と二人大和から安曇野に移住した。白馬岳に連なる青春時代の懐かしい山々を見ながら毎日野を歩く。 数年前の安曇野市発行の「シティマップ」に、「わが区の紹介」という記事があった。…

野の記憶    <7>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <7> 近現代の都市計画は、合理主義、経済性、利便性が支配した。 「世界の町づくり」を研究した渡辺明次は、アメリカのこんな事例を紹介している。 「社会が工業化し精神的な荒廃が進む中で、優しさや…

野の記憶    <6>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収・改稿) <6> 自然を愛した随筆家、串田孫一は、関東大震災で家は焼かれ、さらにまた、東京大空襲で焼け出されるという二重の苦難に出会った。戦後彼は大和路で一つの村に出会う。奈良県は、盆地と高原と山岳の…

野の記憶    <5>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収) <5> 大和に魅せられた入江泰吉は奈良公園の一角に居を定め写真を撮りつづけ、その写真は人々を感動させた。 「万葉集に流れる自然観は古代人に共通のもの、彼らは自然と共に生き、愛し、崇め、心のよりどころ…

野の記憶   <4>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収の原作) <4> 朝鮮戦争後、経済発展に伴う大阪府周辺部の農村地帯の変貌は急激だった。野放図な宅地開発と建設が河内野を埋め尽くした。農業はほとんど壊滅する。 一九七〇年、僕は結婚し、河内野を去り斑鳩の近…

野の記憶   <3>

野の記憶 (「安曇野文芸2019・5」所収の原作) <3> 明治維新後の東京の開発はめざましかった。富国強兵の槌音は全国に広がり、都市建設とともに軍事施設の建設が著しく進行した。吉江はパリを守るように保全される周囲の森林を思い浮かべたのだろう…