「ひきこもりの国」  <5> 

 

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 福島原発事故の前、2003年に起きていた重大な出来事をジーレンジガーがキャッチした。

 福島の原発で、保守点検を担当していたGE社の日系アメリカ人、カイ・スガオカは、GE社を解雇された。それはなぜか。

 「スガオカは原子炉に亀裂が入っている様子を映したビデオテープを上司が消去しているのを目撃したのだ。スガオカはその事実を規制当局に告発すると、当局は東京電力とGE社に、告発者のスガオカの名前を伝えてしまった。そしてスガオカは解雇された。告発者は保護されるというのはウソである、とスガオカは言った。2003年、東電は破損箇所を修理し、他の原子炉についても同様に老朽化が起きていないか調べるために運転を中止した。

 日本で企業の違法行為を暴露する人は、しばしば裁判を経ずに処罰される。」

 そして筆者はこう指摘する。

 「『ひきこもり』を調べるうちに、『ひきこもり』の若者たちが日本社会の価値観を拒絶していることがわかってきた。日本のシステムは、重圧、義務、相互の犠牲によって作り上げられたもので、寛容や思いやりを育てるようにはできていない。第二次世界大戦から60年経っても、日本の価値観の核心はほとんど変化していない。

 1997年、私は日本初の女性国会議員の加藤シヅエにインタビューした。

 加藤は、1937年、政府が軍事野望のために、国民に『産めよ増やせよ』と求めていることに対して、避妊の正当性を訴えた。それによって加藤は投獄された。戦後、労働者や環境の問題で闘ってきた加藤は、100歳を迎えていた。加藤は語った。

 『日本の男たちの行動は、自分が生まれたときから変わっていない。日本の男は昔と同じで、囚(とら)われの身であり、しがらみで、がんじがらめになっている。だから思ったことをはっきり言えない。』と。

 封建制から工業化、戦争、そして復興と、恐ろしいほどのスピードで突っ走ってきた日本には、国家から独立した個人の力、社会から独立した自己、集団の感情から独立した個人の良心の重要性といった考え方、すなわち啓蒙思想が個々の人生の中に一度も入ってこなかったのだ。『ひきこもり』の問題は、日本全土に広く見られる精神的荒廃を反映している。」

 「ひきこもり」の原因は、日本の社会、政治、経済、教育、環境、生活、人間性、人間関係、すべてが関係している。

 そうして「ひきこもり」になる人、「自殺」におちいる人、犯罪にはしる人、病にふせる人、家を捨てる人などと、複雑多岐にわたり、悲鳴は押し殺されているのだ。