さだまさしの「防人の歌」

 

 枯れ野を歩く。気温がずいぶん下がって、 雪片ちらつき、寒風が身にしむ。もう鳥類以外の生き物の姿は見ない。

 一つの歌が頭に浮かんだ。

 

   教えてください この世に生きとし生けるもの

   すべての命に 限りがあるのならば

   海は死にますか 山は死にますか

   風はどうですか 空もそうですか

   教えてください

 

 「さだ まさし」の歌だ。吟遊詩人、さだ まさしの「防人の歌」だ。

 「防人(さきもり)」は古代、万葉の時代に、九州の防備にあたった兵だった。

歌は、心に沁みる。心が震える。

 「防人の歌」、どうしてこのタイトルを付けたのだろう。ひょっとしたら、万葉集に何かがあるかもしれない。本棚から万葉集を出して調べてみた。

 おう、こんな歌があった。万葉集巻14 3852番の歌。

 

  いさな取り 海や死にする 山や死にする

  死ねこそ海は潮干て 山は枯れすれ

 

 (海は死ぬのであろうか 山は死ぬのであろうか 死ぬからこそ海は潮が干き、山は枯れるのだ。「いさな取り」は、海にかかる枕言葉だ。)

 

 万葉集には、「防人の歌」が多く収められている。「防人」は、当時、辺境の地を守る任に着く兵士だった。主に壱岐対馬などの防備に着いた。この頃すでに徴兵制があったのだ。

 

  ますらおの靭(ゆき)取り負ひて出でて行けば

  別れを惜しみ嘆きけむ妻

 

 矢入れを背負って出ていく夫との別れを嘆く妻の歌だ。

 さだ まさしの「防人のうた」は、次のようにつづく。

 

   私は時折 苦しみについて考えます

   だれもが等しく抱いた 悲しみについて

   生きる苦しみと 老いゆく悲しみと

   病の苦しみと  死にゆく悲しみと

 

   答えてください ありとあらゆるものの

   すべての命に 約束があるのなら

   春は死にますか 秋は死にますか

   夏があるように 冬が来るように

   みんな ゆくのですか

 

   わずかな命の きらめきを信じていいですか

   言葉で見えない 望みといったものを

   去る人があれば 来る人もあって

   欠けてゆく月も やがて満ちてくる 

   なりわいのなかで

 

   教えてください この世に生きとし生けるもの

   すべての命に 限りがあるのならば

   海は死にますか 山は死にますか

   春は死にますか 秋は死にますか

   愛は死にますか 心は死にますか

   私の大好きな ふるさともみんな

   逝ってしまうのですか