愛唱歌に込められた戦争 2

 

 

    私が淀川中学校の教職に就いて二年目だったか、高知県から出てきて同じ職場に配置になった新任の美術科教員井上誉さんと親しくなった。ある日彼はクラスの子どもたちを連れて運動場の一角に輪になって座り込んだ。しばらくして職員室の私の耳に、歌声が聴こえた。

 「はーるになれば すがこもとけて どじょっこだの ふなっこだの よるがあけたとおもうべなあ~~」

   いい光景だなあ、私はひとり笑っていた。

 放課後の教室で誉さんと雑談をしていた。

「こんな歌があるんだよ、大学で覚えた歌でね」、彼はそう言って、いい声で歌い出した。それは私が一度も聞いたことのない「いぬふぐり」という素朴な歌だった。

 

    あのとき一度、聴いただけなのに、あれから60年近く経つ今も、「いぬふぐり」は、私の中に残っている。 そして時々、口ずさむことがある。

 

  1,    丘は今も 柴山 いぬふぐりが咲いている

      息をはずませて登った くにさんと一緒に登った

 2、お茶の子の むすびを持って 二人呼び合いながら登った

  ももひきの小さな足を 干し草のにおいがした

  3,  くにさんは 戦争に行った いぬふぐりを放りつけていった

       手紙もとどかぬ遠くで 口もきかずに 死んだ

  4,,  麦ののげを払いながら登る しぱしぱするなと 言ってみる

       だけど くにさんは死んだ たくさんの人が 死んだ

   5,   いぬふぐりを 忘れない くにさんを忘れない ずっと

        戦争の悲しさを忘れない 戦争が起こらんようにする

 

 最近ふっとこの歌と井上誉さんを思い出す。調べてみると、五番まで歌詞があった。そして今も、この歌が歌われていることも知った。誉さんに会いたい。今どこにいるだろう。健在だろうか。