秋の日は釣瓶落とし

 

    つるべ(釣瓶)という水汲み道具があった。

    私が小学生の頃、母方の祖父母の家に行くと、水は井戸からつるべ(釣瓶)でくんでいた。井戸は台所の中にあり、その水で生活のすべてをまかなっていた。

    つるべにはロープの一端がくくりつけられていた。水を汲むとき、ロープを手で握って、つるべをスルスルと井戸のなかに下ろしていき、水面につるべが着く前にロープを少しぐっと引いて、つるべを逆立ちさせる。すると、つるべは水をがぶりと、器内に満たす。そこでロープを引き上げる。

    広辞苑で、つるべ(釣瓶)を引くと、神代紀に、「玉の釣瓶をもって水を汲む」とある。釣瓶は昔からの生活道具だった。だが今はもうほとんど使われていない。

    「秋の日は釣瓶落とし」という言葉がある。今の子どもも若者も、実感として分からないだろう。秋の日は早く暮れる。夏の日は、夕方遅くまで畑仕事もできたのに、今は夕方になると、たちまち暗闇が迫ってくる。

    朝のウォーキングで出会うおじさんと、ちょっとおしゃべり。

    「今朝は気温12度ですよ。二三日前は30度を超えていたのに。」

    「急転ですねえ。いやはや、夏から秋になったと思うと、もう冬が来ますよ。」

    おじさんは熱を込めて語りだした。

    「夏が終わったら、もう冬ですよ。このごろ秋は短いですよ。春も短かったですよ。冬が終わって春になったら、すぐに夏がやって来た。こりゃあ、亜熱帯気候ですよ。日本は亜熱帯になってきたんです。」

    「はあ、そういうことですかあ。日本は異常気象になってきたんですなあ。」

    「日本だけじゃなく、世界が異常になってきたんですよ。」

    なるほど、そうかもしれない。北極圏の氷は融け、ヨーロッパのアルプスの氷河も融け、異常な山火事が世界の各地で起こり、旱魃が襲い、豪雨が降り続き、洪水が襲い、地球環境は危機的でもある。そんな地球にしてしまったのは人類。

    それなのに、なおも戦争をやりつづけるバカな人間。