殺戮の殿堂

 

 

  明治以後の近代日本においては、戦争は国民につきまとっていた。

  伊藤新吉(詩人)が、近代における「戦争と詩人」について書いていた。

 

 「白鳥省吾は、ふしぎな詩人である。その詩のあとをたどると、はっきりした主題の反戦詩が目に付く。その数は十数編、反戦詩の第一人者は白鳥省吾だった。」

 

 

        殺戮の殿堂

 

  人々よ 心して歩み入れよ

  静かに たたえられた悲痛の魂の

  夢を 光を

  かきみだすことなく歩めよ

  この遊就館のなかの砲弾の破片や

  世界各国と日本との あらゆる大砲や小銃

  鈍重にして残忍な微笑は

  何ものの手でも 温めることも 和らげることもできず‥‥

  時代より時代へ

  場面より場面へ

  転々として 血みどろにころび果てて

  ‥‥‥

  私は又

  手足を失って 

  皇后陛下から義手義足をたまわったという士卒の写真が

  無数に並んでいるのを見る

  その人々は今どうしている?

  戦争は どんな影響をその家族に与えただろう

  ただ お国のために戦えよ

  ‥‥‥

  それらの血と涙と歓喜との かぎりない展開よ

  ‥‥‥

  永遠に血みどろに 聞こえくる世界の勝鬨(かちどき)よ

  硝煙の匂いよ

  進軍ラッパよ

  ‥‥‥