丸山薫が、昭和二年に発表した詩。
汽車にのって
汽車にのってアイルランドのような田舎へ行こう
人びとが祭りの日傘をくるくる回し
日が照りながら雨の降る
アイルランドのような田舎へ行こう
窓に映った自分の顔を道連れにして
湖水をわたり トンネルをくぐり
めずらしい顔の少女や牛の歩いている
アイルランドのような田舎へ行こう
海の好きな少年(子ども)らは
いつかは練習船に乗るだろう
バナナの実る南の島へ
風に翼張り とんでいくであろう
恋することを忘れた一生を
波の間に間に送るであろう
やがてロビンソンのように年老いてから
人形のような乙女をめとるであろう
地方官をしていた父の関係で、丸山は子供の頃、常に転居し、故郷という意識が育たなかった。だから自分は旅する異邦人だと思う。孤独な思いを持って旅をする、けれどいつかは、いい出会いがあるだろうと思う。
人は常に心に郷愁をいだき、憧れをもって生きる。