らっきょうの歌

 

 

 鶴見俊輔は、戦後間もなくから、ぽつりぽつりと詩を書いていた。

 「わたしの葬式で配れるように、詩集を作りたいと思っているんだ。」

 詩集の題は「もうろくの春」に決めていると。

 そうして、「もうろくの春」は小部数ずつ版を重ね、「鶴見俊輔全詩集」になった。

 2006年、姉の鶴見和子が88歳で亡くなり、遺言によって、鶴見俊輔と妻、息子、妹は、小船に乗り、紀伊水道で散骨をした。

 2915年、鶴見俊輔も亡くなった。俊輔の詩、一篇。

 

 

   らっきょうの歌

 

 猿がらっきょうを

 むいている

 皮、皮

 皮の山

 

 うずたかい山に うもれて

 一心に むきつづける

 彼に むくいられる時は来るか

 

 皮・皮 嘘の皮

 嘘の皮が 真実でないと

 誰が 言えよう

 

 むきすてられた皮が

 私をおしつつむ時が 来ないと

 誰が 言えよう