映画「ヒトラーに屈しなかった国王」



 家内がもらってきた映画上映のちらしを見て、観に行きたいと思ったのは一月の中ごろだった。ノルウェイ映画「ヒトラーに屈しなかった国王」、ノルウェイの原題は「国王の拒絶」。ノルウェイでは大ヒットして、七人に一人が観たという。
 上映館は塩尻市にある小さな映画館「東座(あずまざ)」で、優れた名画を上映している。ところがいつも観客がたいへん少ないということを聞いていた。家内がときどき鑑賞しに行くが、観客が今日は七人だったとか、そんなんでよく採算が取れるなあ、と不思議に思う。選ばれた名画も、情報が人びとに知らされることがないから、いつも閑古鳥が鳴いている。
 12時半からの上映時間に間に合うように、車で二人で出かけた。裏道を通っていったが小一時間かかった。入館料一人1100円、館内に入り見渡すと客は13人だった。この映画館、つぶれないでほしい。つぶさないようにしたい。やはり庶民が映画を観て映画館を守っていくという基盤が必要だと思う。

 時は1940年4月9日、ノルウェーの首都オスロナチスドイツの侵攻が始まる。ノルウェーには国王ホーコンがいるが、政治は国民に選ばれた国会と政府に委ねられている立憲君主国。圧倒的な軍事力をもつナチスドイツに対してノルウェイに勝ち目はない。徹底抗戦すべきなのか、戦争を避けてヒトラーの傘下に入る方がいいのか、政府は迷い、国王、皇太子も苦悩する。国王と首相閣僚は対立し、激論を交わし、王と皇太子も苦悩の論を闘わせる。映画は、この三日間の葛藤を時間を追って描く。緊迫したドキュメンタリー映画のようだった。そこにオスロに住むドイツ公使の苦悩がからんでくる。彼はドイツの政治家だが、娘もノルウェイで生まれ、ノルウェイ愛する人だった。戦争を避けたい、しかしヒトラーの命令に逆らえない。ドイツ軍は侵攻を開始し、国王と皇太子は山岳部へひそかに避難する。ドイツ公使は直接ホーコン国王に会って、戦争を避けるための道を模索しようと、ドイツ軍幹部と衝突を繰り返しながら一人になっても必死の努力をする。国王は、戦争によって国民を殺したくないがドイツの支配下に入ることはできない、あくまでも戦うべきだと思う。しかし国の運命を決定するのは国民であり、国民によって撰ばれた政府だ。自分にはその権限がない。だからドイツ公使には会うことはできない。祖国を守りたい、その心は同じだが、方法、考えの違いが激突する。それをどう超えていくのか。三者三様の葛藤がこの映画の重要なポイントだった。鑑賞者はその葛藤から何を考え、何を学ぶか。
 ドイツ公使とノルウェー政府、国王のホーコンは会見し、ついに国王ホーコンは、ナチスの要求に従うか国を離れて抵抗を続けるかの選択を迫られる。
 「この国の行く末は密談によって決まるのではない。国民の総意で決まるのだ」と、ホーコンはヒトラーに従うことを拒否した。
 ノルウェイは敗北、国王はイギリスに逃れた。ヒトラーの命に反したドイツ公使はその後、ヒトラーによって東部戦線に送られ敗戦を迎え、ソ連軍の捕虜となった。

 この映画は日本人にも見てほしい。国が亡ぶかもしれないという瀬戸際におかれた時、個人個人がどのような考えに基づいてどのような道を選択するか、「政府にお任せ」とか、「みんなに従う」とか、「なるようにしかならない」とかという国民は国を亡ぼす。