2016-01-01から1年間の記事一覧

 こうなることが分かっていた道

土岐善麿の敗戦直後の歌。 あなたは勝つものとおもってゐましたかと老いたる妻のさびしげにいふ 老いたる妻が寂しげに言ったその言葉。「あなたは日本が勝つものと思っていましたか」。 何の疑いもなく信じていたの? それとも疑いもしたの? 私は‥‥‥?、負…

 うらうらに照れる春日に雲雀あがり

めずらしくヒバリを見た。この季節、水田に早苗が植えられ、麦が穂を出している。子どもの頃は、野に出るとヒバリのさえずりが聞こえ、春の野はヒバリの協演だった。ヒバリは麦畑に営巣していた。 田淵行男が「安曇野挽歌」で、「ヒバリの声も聞こえない」と…

 「70年目のきけわだつみのこえ 『自由主義者』上原良司の特攻死をめぐって」

「あの人には二面性がある」とか、「あの人には裏表がある」とか言うときは、よくないという評価の気持ちを込めている。「二面性」のある人はよくない、「裏表」のある人は信用できない、一般的にはそういう見方がある。けれど、「二面性」とか「裏表」とか…

 光る放射線を浴び続ける

海三郎くんから「季論21」春号が送られてきた。新船君、苦労してよくやってるなあ。 最初のところに写真ページがあるのだが、そこに「光る放射能」と題したフクシマからの映像が載せられている。撮影者は森住卓。 まず1ページ。保育園の庭に落ちていた園児…

 「無着成恭 ぼくの青春時代」<2>

人生を通して、ぼくは戦後の教育を体験してきた。たくさんの教師たちがぼくの人生を通り過ぎていった。戦後の自由な教育改革の中から生まれてきた創造的献身的な教師たちの数々の実践と情熱に共鳴し、一方で、戦前の体質を温存して生きる権力的教師たちや、…

 「無着成恭 ぼくの青春時代」<1>

日本図書センターが「人間の記録」というシリーズを出版している。一冊一人、その人の著述・自伝を集めたもので、田中正造から始まり、今で174巻目になるらしい。これはまたすごい。実に多彩な人物像が本人の記録で集大成されている。他者の評論はなく、丸ご…

 田淵行男記念館

先週の土曜日は田淵記念館の「百楽まつり」で、桜も満開だし、家内が、「きょうは、入場料もタダだよ。抹茶のおもてなしもあるよ」と言うから二人で行ってきた。去年から田淵さんとは縁ができていたことも行く気になった原因の一つである。田淵さんはもう故…

 パンツァントゥンが手伝ってくれた

イワオさんが冬に持ってきてくれた柿の枝を40センチの長さに切っていたら、電話が入った。パンツァントゥンが、今から行くと言って、電動自転車でやってきた。今日は早く仕事が終わった。じゃあ、工房で日本語の勉強をするかい。「イワンのばか」を持って来…

 ルアンの送別会

あと5日すれば、ルアンがベトナムに帰る。堀金日本語教室で送別会をした。集まったのは20人。久しぶりに日本人の妻となったフィリピン人の二人が、差し入れを持って来てくれた。日本人と奥さんのベトナム人がかわいい幼子を連れてきた。二組の中国人のお…

 春「世界でいちばん美しい瞬間(とき)」

ヒヨドリは、ヒメコブシの花が相当おいしいらしい。つがいでやってきて、パクパク花を食べる。去年は、それで、花がすっかりなくなって、楽しむこともできなかった。今年は、ちょっと遠慮してもらおうと、パクパクやりはじめたころに、ゴーヤのグリーンカー…

 風力発電所計画の白紙撤回と原子力発電の継続

それにしても、ちょっと分からない。どうしてオジロワシやオオタカは、風力発電の風車が回っているのを前方に見えるはずなのに、そこを避けないのだろうか。 齋藤慶輔氏は、鳥たちの飛び方を説明していた。獲物を探しながら飛翔する彼らの眼は、上空から下の…

 齋藤慶輔と上橋菜穂子

北海道で野生動物専門の獣医師をしている齋藤慶輔と、オーストラリアの先住民アボリジニを研究し、『精霊の守り人』で国際アンデルセン賞を受けた作家、上橋菜穂子との対談は、野生生物と人類の行く末を暗示していて、衝撃的だった。 北海道では、オジロワシ…

 生徒の命を奪った教育

子どもの頃、あるいは大人になってからでも、「小さな悪」、「小さなズル」をしたことのない人はいるだろうか。あの時のあの行為、大概の人は思い当たることがあるだろう。そして、そのことの「小さな罪」が、自分の心の戒めになっていることに気づくだろう…

 吉野せいと石牟礼道子 <4>

この文章の魅力はどこから出てくるのだろうか。ぼくは石牟礼道子の直接の語りをテレビの特別番組で感動しながら聞いたことがあるが、その言葉もまたぼくを引きつけてやまなかった。やはりその人のなかからにじみ出てくる、その人の生き方と人間性だろうと思…

 吉野せいと石牟礼道子 <3>

石牟礼道子の文章の魅力にはまったのは『苦海浄土 わが水俣病』を読んだときだった。1970年ごろだった。「水俣病を告発する会」の活動が盛んになり、ぼくもそこに参加するようになった。 国と大企業チッソは結託して水俣病を引き起こし、無辜の民の命を奪い…

 吉野せいと石牟礼道子 <2>

戦時中、 「課税よりも酷な食糧供出を完納し、昼間働いて、夜は警防団の一員となって村道を歩きながらも、奇跡を信じられない者にはほとんど無策な戦争にしゃにむにかきたてられながら、地辺をはう者たちの、乾ききった固い結合の足場から予想される廃残の土…

 吉野せいと石牟礼道子 <1>

吉野せいが今生きていたら、この福島と日本の状況に、どれほど嘆き悲しんだことだろう。 1974年に出版された吉野せい作品集「洟をたらした神」の巻頭に、串田孫一は強烈な驚きを書いている。「私はうろたえた。ごまかしの技巧をひそかに大切にしていた私は、…

 卒業

もうすぐ卒業していく子どもたちへの担任教師の熱い想いがEメールで届いた。 <卒業ということが、こんなに自分の心を揺り動かすとは思ってもみなかった。 今のわたしは、自分でも驚くような「惜別の情」に悩まされている。自分は、もっとあっさりしたタイプ…

 俘虜収容所で演奏されたベートーヴェン

ベートーヴェンの「交響曲第九」を、日本で初めて演奏したのは、ドイツ人捕虜であった。 2004年、中国の青島(チンタオ)でぼくは2カ月暮らした。青島は1897年(明治30)にドイツが占領し、ドイツの租借地になったことから、その旧市街の周辺を散策すると、…

 フィッシャー=ディースカウの歌、ベートーヴェンの苦悩と歓喜

冬の夜、凍結したドイツの広野を、ボロ車を何時間も走らせ、フィッシャー=ディースカウの「冬の旅」の演奏を聴きに行ったのは、ドイツ文学研究者の小塩節が留学生のときであった。彼はレコードがすり切れるまで聴いたという。ぼくの昔の同僚だった森田博さん…

 虫、微生物のおかげで生きている

ユスリカが数十匹かたまって飛んでいる。飛んでいると言っても移動する飛行ではない。同じところを集団で上下している。数日前まで夜は氷点下の寒さだったのに、いつのまにか現れて集団の舞踊をくりひろげる。この小さな生命の不思議。ユスリカは蚊とよく似…

 一昨日、昨日、今日

今朝、子どもたちの通学路になっている野の道を行くと、道端に立てられた太陽光発電の外灯のうえに、タカが一羽とまっていた。すぐ横をランを連れて通り過ぎたが、タカは動かず、平然としてあたりを眺めていた。ノスリ? タカの一種が頭に浮かんだ。が、ほん…

 ルアンの最後の旅

日本語教室に来ているルアン君が、4月にベトナムに帰る。安曇野のキノコ栽培の工場で農業の技能実習生として働いてきて、この春、三年間の期限が来る。ほとんど休みなく働いてきて、日本という国の旅はまったくできていない。帰国準備の数日間、やっと実習が…

 校歌を歌う会があった

我が家からそんなに遠くないところに住んでいる、安藤さんという一人の市民が発起人になって、校歌を歌うイベントが生まれた。発端は、市制施行10周年の行事にふるさとの校歌を歌ってみようやというアイデアだった。 安曇野市には15の小中学校があり、それ…

 「チェルノブイリの祈り 未来の物語」<5>

関西電力の高浜原発4号機が再稼働する。九州の川内原発、高浜三号につづく四つの原発の稼働だ。福島原発事故後、すべての原発がストップしていたこの国だったが、またもや事故以前の国と同じになりつつある。 ベルギーの原発のことがニュースに出ていた。ト…

 「チェルノブイリの祈り 未来の物語」<4>

「プロメテウスの罠」というドキュメンタリーの連載が朝日新聞で続いている。今日で1544回になる。福島原発事故後、事故の正体を追いつづけるこの記事に、すさまじい執念を感じる。プロメテウスは、ギリシア神話の英雄、天上の火を人間に与えてゼウスの怒り…

 「チェルノブイリの祈り 未来の物語」<3>

現代の日本人の頭に、チェルノブイリはどのように位置づいているだろうか。 スベトラーナ・アレクシエービッチは、この本の最初に「見落とされた歴史について」と題してこんなことを書いている。 「この本はチェルノブイリについての本じゃない。チェルノブ…

 「チェルノブイリの祈り 未来の物語」<2>

アレクシェービッチは、3年間かけて300人の人に取材した。 「一人の人間によって語られるできごとはその人の運命ですが、大勢の人によって語られることは既に歴史です。二つの真実、――個人の真実と全体の真実を両立させるのは、もっともむずかしいことです。…

 「チェルノブイリの祈り 未来の物語」<1>

「チェルノブイリの祈り 未来の物語」(スベトラーナ・アレクシエービッチ著 松本妙子訳 岩波現代文庫)を読んだ。チェルノブイリの村人たちの語りに、ぼくは引き込まれた。 2015年のノーベル文学賞は、ベラルーシの作家・スベトラーナ・アレクシエービッチ…

 生命力

2メートル近くに育っていたトキワマンサクの樹が、幹の真ん中でぽきりと折れて、樹の先端が地面についていた。先だっての雪が樹の上部の枝に降り積もって塊となり、その重みに耐えきれずに折れたのだ。気温がぐんと冷えて降る雪は軽く、大量に枝にとどまらず…