岡本潤の詩、「山」の意味するもの

f:id:michimasa1937:20191022101903j:plain

 山を歌っている。けれど、それを読む僕は、あの時代の人間というものをそこに感じる。そして、今の時代の何かを感じる。

 岡本潤の「山」という詩がある。読んでみよう。

 

     山

 

日夜

北方の山に向ひ

山を見てくらした

幾星霜

山のうごきだす天然の奇跡をおもひ

じっと山をみてゐた

陽に映え

かげり

雲は流れ

雨にけむり

虹や

銀河や

電光(いなづま)や

嵐や

四時刻々

山は変幻万化した

だが

山はつひに大地とともにうごかず

四季星霜に変貌しつつ彼処にじっと坐してゐた

或る朝 私は山に向ひ

おおいと呼んだ

山はこたへず

たちまち山の彼方からいんいんと砲声が鳴りわたった

 

 

  ぼくは、この「山」に、あの時代の日本を感じる。「山」に「民衆」「市民」を感じる。さらにまた、今の日本と、世界を感じる。

 岡本潤は、次の詩「おれら」を詠った。

 

       おれら

おれら ゴロツキといわれ ヌスビトといわれ コツジキといわれ ヒトデナシといわれ ムチムノウといわれ コウガンムチといわれ クズといわれ カスといわれ ヒトゴロシといわれ コクゾクといわれ

つまはじきされ

おったてられ

しばりあげられ

つるされ

ひっぱたかれ

けられ

ふみにじられ

 

されど おれら

悔いなし

怖るるなし

天下に恥ずるなし

 

地平線はきわまりなし

輝く天日にむかい

高らかに歌い

朗らかに呼ばわり

ブラヴォを叫び

手を組み

肩を並べ

足踏み鳴らし

吾らが大道を歩まん