詩の玉手箱  「道]

 

 

    大江満雄の次の詩は、第二次世界大戦のときの日本の光景だが、今ウクライナ起きているロシアによる侵略戦争からは、第三次への危険な予感、既にその臭いがする。戦争を止めようとする動きが、まったく出てこない。

 

 

         道    

             大江満雄

 

   夕暮れ 戦死者を迎える人

   群れをなして 音をたてず

   粗衣をまとうて 子を背負う人

   子を泣かさず

   旗を立て 兵にいだかれた骨壺のうしろに

   妻は涙を見せず

   終日 わが友の妻子らもかく歩み

   骨壺をいだいて哀しみを越えるか

 

 

 

    ぼくは子どものころ見た光景を思い出す。出征してサイパンで戦死した叔父の、お骨の入っていない骨壺が、叔父の弟の胸に抱かれ、駅を出て野の道を歩いて家に帰ってくる、寂しい無言の光景を。