到来する危機

 

    「熱帯雨林が滅びつつある。この森が滅ぶと地球上の酸素が足りなくなる」

  1960年ころ、こういう警告を発したのは西丸震哉だった。西丸は農林水産省の研究室長をつとめ、パプアニューギニア、アマゾン、アラスカ、南極など世界の秘境を探検調査し、環境観察と食糧研究から、「食生態学」を確立、そこに見えてきた開発による自然破壊、食糧危機、大気汚染に対して、地球の危機、人類の危機の到来を警告した。

 それから30年後、サルからヒトへの研究家、河合雅雄(京大・人類学生態学者)が警告を発した。

 「北海のアザラシが一時ほとんど死んでしまった。バイカル湖のアザラシもほとんど死んだ。PCB、DDTなどによる海水汚染により、生殖系と免疫系をやられた。人間の精子の数もものすごく減っている。

 ぼくは霊長類の進化を研究して、人間の由来を探ろうとしている。どうしてサルからヒトへ進化したか。私の考えたのは、霊長類は森林の樹上生活者だったことだった。1970年、ウガンダの熱帯多雨林に行って、森の樹上生活のなかで人間ができてくる母体が生まれたことに気づいた。」

 河合は熱帯多雨林の環境とサルの生態を研究し、食物の豊富さ、生存を邪魔する動物がいないこと、彼らは子どもの出生を調節していることを発見する。ゴリラ、チンパンジーの出産間隔は5年ぐらい、オランウータンは7年ぐらい、自己調節をしている。

 「霊長類は人口調節しなかったら滅びる。地球環境を守ることと、人口調節をすることはいちばん重要、そして飢餓と闘争、戦争から逃れるようにすることです。

 人間は、ものすごい残虐性と、ひじょうに崇高な愛の世界の両方を持っている。それが人間です。」

 

 今、起きていること。南極の氷は溶け、アマゾン、パプアなどの熱帯雨林は減少を続け、世界のいたるところで、旱魃、山火事、洪水、砂漠化、大気汚染、海洋汚染、食糧危機が起きている。動物たちは逃げ場を失い、人間社会には崩壊がしのびよっている。

 そこへもって、ロシアによるウクライナ侵略戦争が勃発。世界的に広がっていた地球環境保全の動きはストップした。権力的指導者の国は、ますます軍事力を強化し、核兵器を誇示し、きわめて危険な局面に至っている。