虫たちとの会話


   白樺の幹の白さよ
  


働く人の姿も見えない町工場の、古びたフェンスにツルバラがからんでいて、
元気のないピンクの小さな花が咲いていた。
一枝をもらってきて挿し木にしたら根づいて芽が伸びた。
それをガレージの前に植えたのだが、うどん粉病にかかって元気がない。
近所の農家の奥さんが目ざとく見つけ、薬をあげましょうと、うどん粉病に効く粉剤を持ってきてくださった。
水に溶いて何回か撒いたら元気になり、長いシュートを1メートルほど伸ばしてきたから喜んでいたら、
いつのまにやらその先端10センチほどに、アリマキが群がっている。
これはテントウムシにお願いしようと、家の中に入ってきたのを、アリマキの付いているところに持っていった。
とつぜん餌場の上に置かれたテントウムシは、その場で食べ始めた。
2、3日したら、シュートの先のアリマキはすっかりいなくなり、きれいになっている。
テントウムシの姿もなかった。


ハチが巣をつくっていた。
一箇所は勝手口のドアの横、もう一箇所は座敷の縁側のサッシ、そして農業用コンテナの一個に一つ。
アシナガバチだと思っていたら、巣の形が横に変形して伸びていくし、
ハチの大きさもいつものアシナガバチよりも小さい。
お隣のみよこばあちゃんがリンゴを三つ持ってきてくれたとき、ハチの巣を見つけ、
「あぶないよう、こわいよう、巣を取ったほうがいいよう。」
と進言してくれたが、
「ハチは何もしないよ。ハチは友だちで、よく知っているよ。」
ぼくは、そのままにして、いつも巣から50センチほどのところをへっちゃらで通っていた。
10数匹、何をしているのか、巣を守っているのか、巣を拡張しているのか、子どもを育てているのか、
巣に取りついていた。
虫をとってくれるハチだし、こちらが危害を加えなかったら、何もしないさ、
と、そのままに置いて、観察だけは怠らなかった。
9月に息子一家が帰ってくることになった。
孫の晴ちゃんは今3歳。
庭に来て、ハチにさされたら大変だなあ、
巣にさわらなかったら大丈夫だけど、もしものことがあったらいかんなあ、
と一応ハチにさされたときの薬だけは常備することにしたのだが、
やっぱりこれはなんとかしようと思いがぐらつき、
蚊取り線香のアイデアを考えた。
座敷の窓のハチの巣の真下に、火をつけた香取線香を置いて、
煙が巣のほうに行くようにする。
風が来て、線香のガスが巣を襲った。
とたんにハチたちの半分ほどが巣を飛び立った。
それから次々、風向きで煙が来るたびに、残りが飛び立っていった。
ところが、1匹だけ残った、
これは最後まで巣を守るつもりの、勇気あるやつで、
煙がきても、巣の向こう側に回っていったん避難し、ガスが切れたらまたこちらに戻ってくる。
この勇者はどこまでもつか、と線香をさらに巣に近づけて置いておいたら、
二時間ほどしたら、その姿もなかった。
翌日、ハチたちも戻らなかったから、申し訳ないが巣を取り除くことにした。
ただし他の2箇所の巣は、今もそのままに置いてある。



工房の床はり工事をしていた。
既にガラス窓ははめこんであるのだが、
どこかのすき間から、トンボが入り込んできた。
トンボはがらんとした室内を飛び回っている。
ぼくはスイスイ飛ぶトンボをしばらく眺めていた。
ガガンボやら大ハエやら、いろんな虫が中に入ってきて、そのまま外に出られずに死んでいる。
おい、トンボ、このままでは餌をとれないで、
外に出たほうたいいよ、
窓を開けてやった。
だが、トンボはこちらの意図を理解しないで、閉まっている窓ガラスに向って飛んでいく。
だめだなあ、ほれ、
別の窓を開けてやると、涼しい秋の風が勢いよく吹き込んできた。
風に向ってトンボは、窓から外に飛び去っていった。
しばらくしたらまた1匹。
これも風上の窓を開けると、風に向ってトンボは飛び出していった。
なるほどこれはトンボの習性だなと気づいた。
工房の高い天井を見上げると、いつのまにやら大きなコガネグモが梁に巣をはっている。
ジョロウグモとも呼ばれている、黄色の身体に青緑の線のあるクモ。
室内に入ってくる虫をとらえている。
なるほどいいところを見つけた。
でも、ここが完成したら出て行ってもらうことになる。


ミミズの多い畦と、ほとんどいない畦とがある。
落葉や野菜くずなど有機物の多いところは、ミミズは多いが、モグラが食べつくしたところは少ないということもある。
新しい作物を作るために、鶏糞やら苦土石灰やらを撒くと、石灰分を嫌ってミミズが出てくる。
古いイチゴの株を片づけていたら、ミミズが出てきた。
おまえ、こっちの畦にはいっておれよ。
指でつまんで隣の畦に土を掘り、そこに入れてやる。
村の農道を歩いていると、ミミズがよく横断している。
乾いた道の途中で死んでしまうものがいる。
車にひかれるものある。
大きなミミズを手で持つと、ひやりと冷たく、
ぬるりとした柔らかい感触がある。
この感触は嫌いではない。
道に迷っているミミズを見つけると、そのままにしないで、道ばたの草むらにほうりこんでやる。
あの身体で、ミミズは結構速いスピードで土の中に潜り込んでいくのだ。
ミミズの作ってくれる土は、ふかふかの養分豊かな土だ。



野沢菜の種をまいた畦に、水を撒く。
モンシロチョウがやってきて、
濡れた土の上を飛び、
時々土に接触する。
水を吸っているのかしら。
休耕田の水たまりに、トンボがたくさん集まって、
しっぽをチョンチョン水につけている。
卵を産んでいるのかしら。