秋、生命



庭の白樺の一本、
葉がまだ色づいてもいないのに、ほろほろ舞い落ちて、
わずかに木に残っている葉ももうすぐ散るだろう。
木が弱っているのか、カミキリムシなのか。
カミキリが幹に穴をあけて卵をうみつけないように注意して、寸前に三匹この夏つかまえた。
では原因は何だろう。

大根、ホウレンソウ、レタスの芽が出ているものの、
日射しが少なくて、生長が遅い。
ニンジンがもうすぐ食べられると思っていたら、土の中を潜ってやってきたネズミに食われた。
今日もまた雨。
稲刈りのすんでいない田んぼはいつになるやら。

今年は蚊が増え、庭にいると小形の薮蚊がたちまち寄ってくる。
大友さんがやってきて、腕をパチンとたたいた。
「蚊が増えて困るね」
「ほんと、増えたよ、増えたよ」
「蚊が増えたからか、トンボふえたね」
「トンボは蚊を食べてくれるの?」
「そうですよ。パクパク飛びながら食べているんですよ」
「じゃあ、家の中にトンボを入れようか」
「ワッハッハ」
「それにしても、蚊はどこから発生しているのかね」
「この二、三年で増えてきたね。今年が最高」
「蚊が増えたということは自然が戻ってきたということでもある」
「そうかねえ」
「だからトンボが増えた」

トンボは、日の照る日には数十匹が庭を舞っている。今までこんなことはなかった。
トンボが増えたからクモも増えたのか、庭にいっぱいクモが巣を張っている。
この秋初めての霧の日、
霧が晴れると、軒先や木々に張られたクモの巣が白く輝き、
クモの糸にくっついた霧の滴が浮かび上がった。
たくさんのクモの巣、あんなところにも巣があるよ。
だがトンボはうまく巣を避けて飛んでいる。
トンボの目玉はお見通し。
家のなかでカマドウマ発見。そっと掌に包んで外に出してやった。
草むらで小さなヒシバッタ発見。
けれどもたったの一匹ずつ。
カマキリは一度見ただけ。カタツムリは増えた。
クロアゲハ、シジミチョウ、モンキチョウは花に舞った。
蛇の姿はない。トカゲもない。ネズミとモグラは多い。
周りは田んぼ。
小さな庭に、それでも虫たちが集まってくる。
蛇よ、トカゲよ、やって来い。