ハチ

 ハチさんは友だち、とか言っていたら、ここ二日、草取りをしていて刺された。コアシナガバチで、ハチの体も巣も小さく、ぼくが顔を数十センチほど巣に近づけても、巣の上で巣作りと巣の防御をしているハチたちは攻撃してこない。コアシナガバチは、普通よく見かけるアシナガバチよりも小さい。11ミリから17ミリほどの大きさだ。
 工房の板壁と窓枠に巣を作っているのは、分かっていた。だから、こっちと彼らとはコミュニケーションもとれていた。刺されたのは、まったくそこに巣があることに気づいていたなかったときだ。ハチからすれば、いきなり暴漢がやってきて巣を攻撃してきたということになる。
 一回目刺されたのは、庭木にからみ付いているヘクソカズラヤブガラシを取っているときで、腕を木の茂みの中に入れて、蔓を引っ張り出していると、いきなりブーンと飛びたったハチに刺された。飛び退いて観察すると、コデマリの茂みのなかに小さな巣があった。急いで、刺された右手の甲の刺し穴にアンモニア水を一滴落した。アンモニア水の刺激臭がぷんと鼻をついた。
 その二日後、今度はコノテヒバの木を剪定していて、これまた木のなかに剪定ばさみを入れて切っていたとき、突如舞い立ったハチの一匹にチクリと左腕をやられた。これもハチの巣が木のなかにあって、見えなかった。急いでアンモニア水を付けたが、一回目よりも二回目が大きく赤くはれた。
 もう一か所、庭用の水道栓のすぐ横に置いてあった大型の植木鉢のプラスチック側面に巣がつくられており、それに気付かず周りの木をハサミで切っていて巣に触れ、飛びたった数匹の羽音の威嚇音で瞬時に身を避けた。このときは刺されずに済んだ。それからこの巣を意識して水をくんでいると、ハチたちもじっと体を動かさずにこちらを見ているようで、手との距離が20センチほどであっても攻撃してこない。そうは言っても、他の誰かがここに水汲みに来て、知らずに刺されることがあってはよくない。どうしようかと思案した。お盆には孫たちも帰ってくる。思案した結果、この巣は梅の木の下に移動してもらうことにした。移動するには暗くなってからがよい。夜の9時、懐中電灯をもって巣に近づき、植木鉢を抱えて梅の木の下に持っていった。ハチたちはうんともすんとも言わなかった。なんだかユラユラ揺れるようだなと思っていたことだろう。翌日、夜が明ければ、巣の位置が変わっていて、彼らはそれをどう認識して、どうするだろうか。興味深い。
 巣は他にも見つかっている。しかし、巣を取るのは最小限にしたい。結局、工房の窓枠に作られた巣と、もう一つの水道栓の横の工房壁に作られたのとは、ハチたちに申し訳ないが、巣を落した。ハチたちは別のところでまた巣作りするかどうか。
 その翌日、巣を落したところにモズが二羽下りて餌を探していた。落された巣に残っているハチたちは、モズの朝食になったかもしれない。