ヴェ―ユの戦争観

 

    シモーヌ・ヴェ―ユというフランス人女性の思想家がいた。

    ヴェ―ユの戦争観に注目し、高く評価したのは吉本隆明だった。ヴェ―ユの考えとは?

 第一次世界大戦で敗れたドイツは飢餓と貧困に陥り、ドイツ労働者の運動が台頭してくる。そこへヒトラーナチスが拡大して政権を握る。ヒトラーは大衆にアピールした。

 「ドイツの民衆がこんなに飢えているのは、戦争に負けて、フランスなどヨーロッパの資本主義国から圧迫され、様々な悪条件を押し付けられているからだ。」

 ドイツ労働者の運動はナチ政権に抑圧され、壊滅に瀕した。ドイツ共産党は助けを求め、ロシアに亡命する者が増えた。ところが、スターリンが権力を握っていたロシアは、亡命してきたドイツ共産党員を捕らえてヒトラー政権に引き渡してしまう。ヴェ―ユは見た、ロシアは本当に抑圧された労働者、大衆の依存すべき国ではない。

ヴェ―ユの戦争観が形成されていった。

   「この地上のどんな国も、勢力も、仮面をはげば、ただの利己主義者に過ぎない。ロシアは労働者の国ではないし、ロシア革命は本質的に破綻して、強固な官僚体制になっている。戦争は、兵器や機械に、人間が使われて、生命を落とすことだ。管理する機械に人間が使われ、抑圧され、人間が抹殺される、それが戦争だ。正義の戦争、不正義の戦争、労働者を解放する戦争、労働者を抑圧する戦争などと分類しているが、そういう戦争観はすべてだめだ。」

    そして吉本は、ヴェ―ユの思想がどうなっていくのかをとことん追求していく。結局はその思考は「人類に対する絶望」に至ってしまう。

 

    21世紀、今の世界を、人は自分の眼で見つめ、考える。国家間の戦争、国内の戦争、あっちでもこっちでも戦争が火を噴いている。

    いったいどうなっているんだ。21世紀は、戦争による崩壊の世紀か。

    権力者は戦争に至る道をほくそえみながら歩んでいる。