戦争

                わが友、ランがいたとき その影

 

 

 

                      黒田三郎の詩(一部抜粋)

 

死の中にいると

ぼくらは数でしかなかった

死はどこにでもあった

死があちこちにいる中で

ぼくらは水を飲み

襟の汚れたシャツを着て

笑い声を立てたりしていた

死は異様なお客ではなく

仲の良い友人のように

無遠慮に食堂や寝室にやってきた

 

戦争が終わった時

パパイアの木の上には

白い小さい雲が浮いていた

戦いに負けた人間であるという点で

ぼくらはお互いに軽蔑しきっていた

それでも

戦いに負けた人間であるという点で

ぼくらはちょっぴりお互いを哀れんでいた

酔漢やペテン師

百姓や錠前屋

偽善者や銀行員

大喰らいや楽天

いたわりあったり

いがみあったりして

ぼくらは故国へ送り返される運命をともにした

引き揚げ船が着いたところで

ぼくらは

めいめいに切り離された運命を

帽子のようにかるがると振って別れた

あいつはペテン師

あいつは百姓

あいつは銀行員

 

 かつて日本は侵略戦争に驀進し、その結果、侵略された国々の人々にどれだけの惨禍をもたらしたか。

その戦争は反転して、日本は惨憺たる敗北の道をたどり、国土は焦土と化した。破壊と殺戮の戦争というものの巨大な悪魔を人類は何度も経験しながら、今もなお戦争を繰り返している。